「はぁはぁ……」

 上条はどうにかスキルアウトの集団をまくことに成功した。
 息も切れて、家からの距離も遠くなってしまっている。
 日は既に傾いていて、少しずつ赤い色がかかってきていた。

(帰るにしても、時間が時間だしな。何か買ってかないとインデックスが……)

 家で待ち受ける胃袋モンスターのことを思い出してどこかに寄ろうと考える上条。

(待てよ。財布は……?)

 上条はポケットの中を探る。
 しかし、財布の感触はどのポケットからも見つからない。

(ふ、不幸だ……)

 とりあえず、歩き出す上条。
 家の方角へと足を運ぶ。
 しかし、上条は気付く。

(学校までの方が距離が近い)

 と。
 そういえば、と上条は思い出す。
 学校に置いてある教科書類の中に虎の子の千円札があることを。

(よし、一度学校に戻るか……)

 上条は学校の方向へと足を向けた。



「勿論、答えは聞いてないけど」

 少年が放つ冷たい言葉にステイルはふっと鼻で笑う。
 所詮はエセ魔術師。
 大した術式も使ってないはずなのに、体からは血を流している。
 魔術が制限されているステイルでも障害になるとは思えなかった。
 少年は足元の生きているか死んでいるか分からないような体を蹴る。

「じゃあ、行くよ?」

 宣言と共に、
 少年がステイルの方へ手をかざす。

 パリーン! とステイルの横でガラスが割れる。

 廊下と教室に面するガラスは吹き飛ばされ、廊下側へガラスの破片が飛び散る。
 ステイルは攻撃を目で捉えることができなかった。

「う~ん。うまく行かないな……」

 少年が再度手をかざす。
 ステイルは反射的にかがむ。
 バゴッ! とステイルの背後の廊下の壁が削れる。

「……ッ!」

 ステイルは歯噛みする。
 高校への潜入というイレギュラーな事情のためにステイルは普段と装備が格違いだ。
 魔術を補助するための刺青や服装が無いため、ステイルの魔術は威力が乏しい。
 さらにルーンのカードなども全て置いていかされたために魔女狩りの王<<イノケンティウス>>を召喚することもできない。

「へへっ、まだ終わりじゃないよ」

 少年が手をかざす。
 ステイルは反応できなかった。
 すると、耳の横をビヒュッという風切り音が通り抜ける。
 またしても廊下の壁がえぐられる。

(あいつの魔術は、風?)

 ステイルはそう推測する。
 コンクリの壁をえぐるほどの風となると相当危険なものだ。
 しかし、わずかに救いなのは、精度が低いことと軌道が手の向きから読めることだ。

「行っくよ~」

 少年が手をかざす。
 ステイルは教室の外側へ走って逃げる。
 教室の前を通り過ぎるように移動するとそれに合わせるようにガラスが次々と破壊されていく。
 ステイルに続いて少年も教室へと出てくる。

「鬼ごっこだね?」

 少年はステイルを追いかけながら手を突き出す。
 風の塊が打ち出されたはずだ。
 ステイルは上半身を動かすことでそれを避ける。
 バランスを崩したステイルの足元に再び風の塊を放つ。
 
「ぐっ!」

 足に風の塊を受けてステイルは廊下を転がる。
 二、三回体を打ち付けたステイルはその場で立ち上がれなくなる。
 慣れない服装、慣れない運動。
 既にステイルの体は疲れきっていた。

「へへへ」

 少年が歩いて近づいてくる。
 少年は笑いながら、左手でステイルの襟首をつかんで持ち上がる。
 
 そして、ステイルの腹の真ん中に腕をつける。
 そこから風の塊が打ち出される。

「ゴハッ!!」

 ステイルの肺から空気が吐き出される。
 少年は手を離していて、そのままステイルの体はノーバウンドで10mほど吹き飛ぶ。
 ついに廊下の端まで達し、ステイルは突き当たりの部屋のドアに激突する。

「もう終わり? つまんないの」

 少年が再び笑って近づいてくる。
 ステイルの思考はまともに働いていない。
 肋骨も何本かいかれただろう。
 腸か肺も潰れたかもしれない。

 ステイルの4mほど前で少年は立ち止まり、
 ゆっくりと手をかざす。

 風の塊が打ち出され、
 ステイルの頭部へまっすぐ軌道を描く。

 しかし、
 その攻撃は届かない。

 小さな黒い鶴の折り紙が小さくはばたいて飛んできて、
 風の塊の軌道へ入った。
 風の塊と衝突した折り紙は大きく爆散する。

「土御門さんの登場だぜい」

 階段を上って金髪とサングラスとアロハシャツの高校生が現れる。
 青い折鶴をステイルに無造作に投げる。

「青キ色ハ水ノ象徴。其ノ恵ミヲ以テ傷ヲ癒セ(さっさとうごけクソヤロウ。なにもできないバカにちょっとしたプレゼントだ)」 

 ステイルの体がいくらか楽になった。
 土御門はこちらに歩み寄る。

「ちょっと痛むぜい」

 ステイルの目の下の皮膚をつかむと一気に引き剥がす。

「痛っ!」

 少し血が流れるが、その下にもきちんとした皮膚。
 そこにはバーコードのような刺青がある。

「これで少しはやれるだろう?」
「ああ、すまない」

 二人は立ち上がる。 

「何々? 君も僕と遊んでくれるの?」

 放課後。
 誰もいない廊下で。
 魔術師とエセ魔術師が対峙する。


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あれ? 終わんなかった……。


どうしよう。


頑張って次で終わらせよう。



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