我が家の玄関に立つ、少し戸惑ったような表情のあの人。
私に誘われて彼氏が眠る部屋の前を通って1人でこの部屋に来るのはさぞ気まずかったろう。
「いらっしゃい」
私は笑顔で彼を迎えた。
しかし、私の部屋はまだ彼を通せる状態では無かったので、
「ごめん!5分だけ時間ちょうだい!!」
と必死のお願いをして、玄関を閉めて片付けの続きをさせてもらった。
あの人を玄関ドアの前で待たせてしまうのは本当に申し訳無かったが、そうするしか無かった・・・。
音を立てて猛烈な勢いで片付け(正確には見える所にあるものを見えない所に押し込む作業)をなんとかセーフだと思える程に済ませ、玄関のドアを開く。
「ごめんね。狭い部屋だけど、上がって下さい」
遂にあの人を部屋に通した。
私の部屋は1DKという名の1Kの部屋で、玄関が別特別狭い。
背の高いあの人は靴を脱ぐのが本当に窮屈そうだった。
玄関のドアを閉めると本当にあの人と部屋に2人きりなんだとにわかに実感が湧いて、鼓動が早まった。
あの人と目が合うと、心臓が口から飛び出しそうになった。
自分が緊張で汗をかいているのを感じながら、私はとにかく彼を部屋へ案内した。
「片付け終わらなくてごめんね、うるさかったでしょ」
などどなんとか口を動かしていたけれど、そういえばあの人を部屋に招いてどうするか全く考えていなかった。
部屋に入ったあの人は私のベッドに腰を下ろした。
私の部屋には居心地の良いソファなんて無いから、確かにソコに腰を掛けるのが自然な流れだろう。
私は、あの人の目の前、ベッドの脇にある長座布団の上に腰を下ろした。
あの人と向き合う形になる。
すぐ側に、あの人の脚がある。
ものすごく緊張していた。
少し話した気がするけど、緊張MAXだったせいか何を話したかは憶えていない。
程無くして、
「まあこっち来なよ」
あの人はそう言って私をベッドへと誘った。
私のベッドはシングルの簡易ベッドだ。
それが窓に沿うような形で置かれている。
あの人は窓側に、私はその隣に横になった。
狭いベッドであの人と並んで横たわる。
目の前にあの人が居る。
目の前に、あの人の派手ではないけどそれなりに端正な顔が在る。
信じられない状況だ。
時刻はおそらく正午前頃だった。
外の天気はそれなりに良くて、部屋の中は明るかった。
私はとにかくベッドの脇のカーテンを閉め、カーテンとカーテンを洗濯バサミで留めて光を完全に遮断した。
ベッドに立てひざになって、横たわるあの人のちょうど頭上のあたりで幾つもの洗濯バサミを留めた。
本当はそんなに何個も留める必要は無かったけれど、緊張を紛らわすために、カーテンに付けっぱなしになっていた7~8個もの洗濯バサミを全て留めた。
あの人が、頭上に揺れるキャミ1枚の私の胸元にムラッとすれば良いとも思っていた。
チラッと見たあの人は、今思い出すと少し緊張しているような面持ちだった。
カーテンを完全に閉め、またあの人の隣に横になる。
しかし遮光カーテンを閉めても尚、向こうの玄関窓から燦々と洩れてくる日の光で室内はまだ明るく感じていた。
完全に明るい訳では無いが、「薄暗い」という状態にはとても物足らなかった。
「暑いけど、布団掛けて良い?」
足元にある薄い毛布を目で指しながら私は言った。
「なんで?」
あの人は薄く笑いながら言った。
「・・・恥ずかしいから」
こんな明るい中であの人に裸を見せるのがとても恥ずかしかった。
昨夜お互いの体には触れ合ったけれど、あの時は布団を被ってこっそりだったので、まだお互いの裸は見ていない。
これから初めて見せるのだ。
あの人は笑いながら私の提案を却下した。
私は結構ほんとに恥ずかしかったので食い下がったが、聞き入れてもらえなかった。
コイツ意外と大胆なんだな、と思った。
あの人が来たばかりの頃より緊張が和らいでいた気がしていたけれど、私の首筋から胸元へと一筋の汗が流れていった。
その感触でまた、恥ずかしくなった。
緊張で流れる程の汗をかくなんて、どれだけ久し振りだろうか。
それも1人の異性を目の前にしてだなんて、今までにもほとんど無かった気がする。
あの人も目の前を流れていった私の汗に気付いた。
「汗かいてる」
「緊張してるからだよ」
初めての異性とベッドインする位で私はさほど緊張はしない。
間違いなく、あの人だからだ。
この時、自分があの人を好きかどうかといえば、よく分からなかった。
でも、あの人が特別だという事だけは分かっていた。
軽く寄り添いながら、昨晩の話をした。
「そっちが乳首触ってきたからさぁ、じゃあ、って俺も・・・こうなったわけよ」
説明するようにあの人が私の体に回した手を少し大胆な位置にずらす。
それがなんだか少しかわいらしいと私は感じていた。
あの人の手が少しづつ大胆になってくる。
ああ、私は本当に、この人と一線を越えるんだ。
私はあの人の事を、もっと純情可憐な奴だと思っていた。
知り合ったばかりの頃はそう思わなかったけど、だんだんそんな気がしてきたんだ。
(案の定、彼が「彼女いない歴=年齢」という事をこの後知る事になる)
でも、あの人の手は想像していたよりも大胆だった。
私もあの人にもっと触れたかった。
「腕、通して良い?」
あの人の頭の下辺りに腕を通してもっと抱き合いたかった。
「良いよ」
あの人が少し首を上げて私の腕を通す。
と、私の腕が辛いと思ったのか、あの人が私の上に覆いかぶさってきた。
押し倒される形になって、あの人が上に、私が下になると、あの人は男で私は女だという事を強く感じる。
見上げた真上には、あの人の顔とかわいらしい瞳が在る。
眼下には、私の体と密に触れたあの人の体が。
あの人が体勢を変えた時に鳴ったベッドの軋む音が、まるで本当の始まりの合図のようで、私は心底ドキドキしていた。