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実際、翔太はかなりムカついていた。
なんて勝手な奴なんだろう。啓二っていつもこうだ。自分のやりたいように行動をする。
今日も、公輝と3人でお金を出し合って、あるゲームを買おうという話でこのゲームショップにやってきたはずだった。それは、「デビルコマンダー2」という翔太が待ち望んでいたRPGの続編だった。それを買う為に翔太は少しずつお金を貯めていたが、発売日にそれを買うのには全然お金は足りていなかった。そこで翔太は、前作のゲームを買った時に貸してあげて、夢中になっていた親友の啓二と公輝の二人に話をもちかけたのだ。2人はすぐにこの話に乗ってきた。3人でこれを買ったら、翔太の家に泊まりに来て一緒に徹夜で遊ぶ予定まで組んでいた。ところが・・・。
「悪ぃ。母さんが泊まっちゃ駄目だって言うんだ」
集合場所に来た啓二は、第一声でまずそんなことを言ったのだ。せっかく盛り上がっていた翔太は、かなりがっかりした顔で「えー?マジかよ。だって、明日日曜だぜ?」とぼやいた。
「無理。明日、ばあちゃん家行く事になったし」
ちょっとすまなそうな顔をする啓二。
不機嫌な顔の俺をなだめるように、公輝が明るくこう言った。
「とにかくゲーム屋行こうぜ」
「おお!出てる出てる。予約してなかったからちょっと心配だったけど。ここが一番安いしね」
「いくら?5800円?一人・・・2000円位か?」
「うん。俺、2000円持ってきた。公輝は?」
「俺も、2000円ちょっと・・・・あれ?啓二はどこ?」
「え?」
翔太と公輝は辺りをぐるぐると見回した。すると、啓二はすぐに見つかった。二人は啓二のそばに駆け寄った。
「啓二、何してんだよ。一人2000円だよ・・・・何?それ」
「俺、このゲーム欲しかったんだよな~。もう、中古でこんな安くなってんだ」
啓二は、中古ゲームのコーナーで、あるゲームを手にとって眺めていた。貼ってある値札は2200円。それは、啓二が前にやりたがっていたアクションゲームだった。
「俺、これ買う事にするよ」
啓二のおもいがけない発言に、翔太は焦った。
「買うって・・・デビコマ2はどうするんだよ。お前、いくら持ってるの?」
「悪い、俺2000円ちょっとしか持って来てないから、そっち買うのやめる」
「やめるって・・おい!!」
翔太は怒って怒鳴ったが、啓二はすたすたとそのゲームを持ってレジに向かってしまった。後に残された翔太と公輝。
「4000円じゃ、買えないね」
公輝がポツリとつぶやく。
「クソ!」
翔太は腹立たしげに、持っていたゲームを棚に戻した。そこへ・・・。
「悪い!!消費税分足りないから、金貸してくれない?」
啓二が走って戻ってきた。片手を突き出してせわしなくその場で足踏みしている。翔太は呆れたように口を開いた。
「お前・・・」
しかし、啓二がそれをさえぎる。
「早く!店員が待ってるからさ!!」
翔太は何か言おうとしたが、その前に公輝が啓二に聞いた。
「いくら?」
「32円」
「わかった。月曜返せよ」
啓二は公輝からお金を受け取ると、「サンキュー」と言い残してレジに戻った。
翔太は、公輝に文句をつけた。
「何で貸すんだよ。あんな奴に」
「いいじゃん、もう。どうせデビコマ2買えないんだから」
「でも・・・」
そう言ってるうちに、啓二が戻ってきた。満面の笑みで、うれしそうにゲームを抱えている。
「助かった~!!公輝、ありがと。俺がクリアしたら、次、お前に貸してやるよ」
「おう」
「じゃ、帰ろうぜ。俺、帰ってこれやるから」
啓二はそう言って、さっさと先に店を出てしまった。
「どうする?もう何も買わない?」
公輝が問いかける。
「・・・もういいよ。帰ろうぜ」
あきらめたように言うと、翔太も公輝と一緒に後を追って店を出た。
自転車置き場では、すでに自転車にまたがった啓二が待っていた。翔太と公輝は黙って自転車の鍵を外すと、自転車にまたがった。
「公輝はこの後どうする?」
「俺は、今日、翔太ん家に泊るって言って出てきたから」
「じゃ、まっすぐ俺ん家に行くか?」
「うん」
「おい!早く行こうぜ!!」
二人で話しているところに、啓二がまどろっこしそうに声をかけてきた。しかし、翔太はわざと無視をした。
「じゃ、途中でコンビニに寄って菓子買って行こうぜ」
「そうだな。ゲーム買わなかったから金あるし」
二人は、やっと自転車を走らせた。啓二も同じように併走する。少し進むと、啓二の家と翔太の家への分岐点にやってきた。特に停車する事なく翔太の家のほうに自転車を進ませる二人。啓二がデカイ声で二人に声をかける。
「バイバイ!」
二人は、面倒だったので返事をしなかった。すると、啓二はますます声を大きくして二人に声をかけた。
「バイバイ!!」
それでも返事をしない二人。すると、啓二は二人が誰に別れの挨拶をされているのかわかってないと思ったのか、名前を入れて声をかけてきた。
「バイバイ!!!翔ちゃん公くん!!!」
それでも、返事をしなかった翔太だったが、公輝の方は返事をしたほうが賢明だと思ったのか、挨拶をかえした。
「バイバイ」
それを聞いて満足したのか、啓二は自分の家の方へ中腰になって自転車をこぎだした。啓二のペダルの音が聞こえなくなってから、翔太に気を使うように公輝がつぶやいた。
「返事しないと、帰らないと思ったからさ」
「俺さ、なんで啓二と友達やってるのかわかんねえよ」
翔太はベッドに横になって漫画を見ながらそう言った。公輝は、翔太の携帯ゲームをやりながら、聞き流すように「ふ~ん」と言った。
「なあ、お前は何で?だって、あいつって勝手だし、ワガママだし、すぐに約束破るし」
翔太が起き上がって顔を覗き込んできたので、公輝もゲームを一旦止めてその質問に答えざるを得なくなった。
「知んないよ。いつも一緒に遊んでるから、友達。それだけ」
「それでいいわけ?それって、俺たち損してねぇ?」
「別に。一緒に遊んでたら楽しいし、友達は少ないより多いほうがいいだろ」
「でもよ・・・」
「何が言いたいんだよ?今日は確かに啓二が悪いかも知れないけど、だからってあいつが悪い奴って訳じゃないだろ」
「じゃ、あいつのいいところって?」
「お前みたいにいつまでもくだらないことをぐちぐち考えない所。単純バカなところ。悪気が無いところ」
「なんだよ、それ」
「そんなに腹が立つなら、遊ぶのやめればいいだろ。俺は、お前がそうやってあいつの悪口言ってると、俺も陰でそうやって言われてるみたいで嫌なんだよ」
「・・・ごめん」
「俺は、お前も啓二も好きだよ。じゃ無きゃ、一緒に遊ばないよ」
「うん」
そこまで話したところで、公輝は再びゲームを始めた。翔太はまた寝転がって漫画を目で追い始めた。しかし、一向に内容のほうは頭に入ってくる気配が無かった。
「・・・なあ、公輝」
「ん?」
「一緒に風呂でも・・・入るか?」
「おはよう、公輝」
「おはよ、翔太」
月曜日、いつものように二人は学校へ行く途中に待ち合わせた。二人でそばの側溝に石を蹴り入れたりしているうちに、もうひとつの足音も近づいてきた。
「わりぃ!!待たせちゃった!?」
啓二はそう言うと、肩にかけてきたカバンを下ろして中を探り、何かを取り出した。
「じゃん!!デビコマ2!!」
そう言うと、啓二はそのゲームを二人に見せた。
「うぉー、マジ?すげー」
「どうしたんだよ、これ?」
「昨日さ、ばあちゃん家行ったら、お小遣いくれてさ。臨時収入一万円!!で、昨日の夜に買いに行ったと」
「うわー、ラッキーじゃん!!」
「という事で、一人2000円ね」
そう言うと、啓二は手を差し出した。
「え?」
「何?」
訝しげな顔をする二人。
「だって、みんなでやるんだろ?だから買ってきたんだからさ」
平然と言い切る啓二に、翔太は脱力したように言った。
「なん・・・だよ、感謝して損した・・・っつうかさ、俺、2000円持ってない。土曜に500円使ったから」
公輝が怪しそうな顔で尋ねる。
「俺は2000円あるけど・・・これ、いくらだったんだよ」
「5800円」
「やっぱり。お前、だったら一人1933円位だろ!!」
「ケチ臭い事言うなよ。200円は手間賃だよ。あ、翔太は分割でいいよ」
「ったく・・・」
そうは言ったものの、翔太はもう怒る気にはなれなかった。元々、やりたいゲームを買うのに人のお金をアテにした自分が一番ズルくて自分勝手だったんだ。それに、啓二は啓二なりにあの事を気にしていたから、わざわざこうやってゲームを買ってきたんだろう。
翔太は、公輝の方を見た。公輝もやれやれと言った顔をしながらも楽しそうである。
「わかった。じゃ、払うよ。その代わり、こないだ買ってたゲーム、公輝の次に貸せよな」
「いいよ。じゃ、3番目な」
その時、公輝が時計を見て慌てて叫んだ。
「やばい!!遅刻するぞ!!」
公輝が走り出すと、翔太もその後を追った。啓二は、カバンに急いでそのゲームを押し込んで2人の後を追いかけた。
「じゃ、今日の放課後、啓二ん家に集合な!!」
「おう!!」
「いいぜ!!」
朝日が照らす道には、3人の足音だけがパタパタと鳴り響いていた。
なんて勝手な奴なんだろう。啓二っていつもこうだ。自分のやりたいように行動をする。
今日も、公輝と3人でお金を出し合って、あるゲームを買おうという話でこのゲームショップにやってきたはずだった。それは、「デビルコマンダー2」という翔太が待ち望んでいたRPGの続編だった。それを買う為に翔太は少しずつお金を貯めていたが、発売日にそれを買うのには全然お金は足りていなかった。そこで翔太は、前作のゲームを買った時に貸してあげて、夢中になっていた親友の啓二と公輝の二人に話をもちかけたのだ。2人はすぐにこの話に乗ってきた。3人でこれを買ったら、翔太の家に泊まりに来て一緒に徹夜で遊ぶ予定まで組んでいた。ところが・・・。
「悪ぃ。母さんが泊まっちゃ駄目だって言うんだ」
集合場所に来た啓二は、第一声でまずそんなことを言ったのだ。せっかく盛り上がっていた翔太は、かなりがっかりした顔で「えー?マジかよ。だって、明日日曜だぜ?」とぼやいた。
「無理。明日、ばあちゃん家行く事になったし」
ちょっとすまなそうな顔をする啓二。
不機嫌な顔の俺をなだめるように、公輝が明るくこう言った。
「とにかくゲーム屋行こうぜ」
「おお!出てる出てる。予約してなかったからちょっと心配だったけど。ここが一番安いしね」
「いくら?5800円?一人・・・2000円位か?」
「うん。俺、2000円持ってきた。公輝は?」
「俺も、2000円ちょっと・・・・あれ?啓二はどこ?」
「え?」
翔太と公輝は辺りをぐるぐると見回した。すると、啓二はすぐに見つかった。二人は啓二のそばに駆け寄った。
「啓二、何してんだよ。一人2000円だよ・・・・何?それ」
「俺、このゲーム欲しかったんだよな~。もう、中古でこんな安くなってんだ」
啓二は、中古ゲームのコーナーで、あるゲームを手にとって眺めていた。貼ってある値札は2200円。それは、啓二が前にやりたがっていたアクションゲームだった。
「俺、これ買う事にするよ」
啓二のおもいがけない発言に、翔太は焦った。
「買うって・・・デビコマ2はどうするんだよ。お前、いくら持ってるの?」
「悪い、俺2000円ちょっとしか持って来てないから、そっち買うのやめる」
「やめるって・・おい!!」
翔太は怒って怒鳴ったが、啓二はすたすたとそのゲームを持ってレジに向かってしまった。後に残された翔太と公輝。
「4000円じゃ、買えないね」
公輝がポツリとつぶやく。
「クソ!」
翔太は腹立たしげに、持っていたゲームを棚に戻した。そこへ・・・。
「悪い!!消費税分足りないから、金貸してくれない?」
啓二が走って戻ってきた。片手を突き出してせわしなくその場で足踏みしている。翔太は呆れたように口を開いた。
「お前・・・」
しかし、啓二がそれをさえぎる。
「早く!店員が待ってるからさ!!」
翔太は何か言おうとしたが、その前に公輝が啓二に聞いた。
「いくら?」
「32円」
「わかった。月曜返せよ」
啓二は公輝からお金を受け取ると、「サンキュー」と言い残してレジに戻った。
翔太は、公輝に文句をつけた。
「何で貸すんだよ。あんな奴に」
「いいじゃん、もう。どうせデビコマ2買えないんだから」
「でも・・・」
そう言ってるうちに、啓二が戻ってきた。満面の笑みで、うれしそうにゲームを抱えている。
「助かった~!!公輝、ありがと。俺がクリアしたら、次、お前に貸してやるよ」
「おう」
「じゃ、帰ろうぜ。俺、帰ってこれやるから」
啓二はそう言って、さっさと先に店を出てしまった。
「どうする?もう何も買わない?」
公輝が問いかける。
「・・・もういいよ。帰ろうぜ」
あきらめたように言うと、翔太も公輝と一緒に後を追って店を出た。
自転車置き場では、すでに自転車にまたがった啓二が待っていた。翔太と公輝は黙って自転車の鍵を外すと、自転車にまたがった。
「公輝はこの後どうする?」
「俺は、今日、翔太ん家に泊るって言って出てきたから」
「じゃ、まっすぐ俺ん家に行くか?」
「うん」
「おい!早く行こうぜ!!」
二人で話しているところに、啓二がまどろっこしそうに声をかけてきた。しかし、翔太はわざと無視をした。
「じゃ、途中でコンビニに寄って菓子買って行こうぜ」
「そうだな。ゲーム買わなかったから金あるし」
二人は、やっと自転車を走らせた。啓二も同じように併走する。少し進むと、啓二の家と翔太の家への分岐点にやってきた。特に停車する事なく翔太の家のほうに自転車を進ませる二人。啓二がデカイ声で二人に声をかける。
「バイバイ!」
二人は、面倒だったので返事をしなかった。すると、啓二はますます声を大きくして二人に声をかけた。
「バイバイ!!」
それでも返事をしない二人。すると、啓二は二人が誰に別れの挨拶をされているのかわかってないと思ったのか、名前を入れて声をかけてきた。
「バイバイ!!!翔ちゃん公くん!!!」
それでも、返事をしなかった翔太だったが、公輝の方は返事をしたほうが賢明だと思ったのか、挨拶をかえした。
「バイバイ」
それを聞いて満足したのか、啓二は自分の家の方へ中腰になって自転車をこぎだした。啓二のペダルの音が聞こえなくなってから、翔太に気を使うように公輝がつぶやいた。
「返事しないと、帰らないと思ったからさ」
「俺さ、なんで啓二と友達やってるのかわかんねえよ」
翔太はベッドに横になって漫画を見ながらそう言った。公輝は、翔太の携帯ゲームをやりながら、聞き流すように「ふ~ん」と言った。
「なあ、お前は何で?だって、あいつって勝手だし、ワガママだし、すぐに約束破るし」
翔太が起き上がって顔を覗き込んできたので、公輝もゲームを一旦止めてその質問に答えざるを得なくなった。
「知んないよ。いつも一緒に遊んでるから、友達。それだけ」
「それでいいわけ?それって、俺たち損してねぇ?」
「別に。一緒に遊んでたら楽しいし、友達は少ないより多いほうがいいだろ」
「でもよ・・・」
「何が言いたいんだよ?今日は確かに啓二が悪いかも知れないけど、だからってあいつが悪い奴って訳じゃないだろ」
「じゃ、あいつのいいところって?」
「お前みたいにいつまでもくだらないことをぐちぐち考えない所。単純バカなところ。悪気が無いところ」
「なんだよ、それ」
「そんなに腹が立つなら、遊ぶのやめればいいだろ。俺は、お前がそうやってあいつの悪口言ってると、俺も陰でそうやって言われてるみたいで嫌なんだよ」
「・・・ごめん」
「俺は、お前も啓二も好きだよ。じゃ無きゃ、一緒に遊ばないよ」
「うん」
そこまで話したところで、公輝は再びゲームを始めた。翔太はまた寝転がって漫画を目で追い始めた。しかし、一向に内容のほうは頭に入ってくる気配が無かった。
「・・・なあ、公輝」
「ん?」
「一緒に風呂でも・・・入るか?」
「おはよう、公輝」
「おはよ、翔太」
月曜日、いつものように二人は学校へ行く途中に待ち合わせた。二人でそばの側溝に石を蹴り入れたりしているうちに、もうひとつの足音も近づいてきた。
「わりぃ!!待たせちゃった!?」
啓二はそう言うと、肩にかけてきたカバンを下ろして中を探り、何かを取り出した。
「じゃん!!デビコマ2!!」
そう言うと、啓二はそのゲームを二人に見せた。
「うぉー、マジ?すげー」
「どうしたんだよ、これ?」
「昨日さ、ばあちゃん家行ったら、お小遣いくれてさ。臨時収入一万円!!で、昨日の夜に買いに行ったと」
「うわー、ラッキーじゃん!!」
「という事で、一人2000円ね」
そう言うと、啓二は手を差し出した。
「え?」
「何?」
訝しげな顔をする二人。
「だって、みんなでやるんだろ?だから買ってきたんだからさ」
平然と言い切る啓二に、翔太は脱力したように言った。
「なん・・・だよ、感謝して損した・・・っつうかさ、俺、2000円持ってない。土曜に500円使ったから」
公輝が怪しそうな顔で尋ねる。
「俺は2000円あるけど・・・これ、いくらだったんだよ」
「5800円」
「やっぱり。お前、だったら一人1933円位だろ!!」
「ケチ臭い事言うなよ。200円は手間賃だよ。あ、翔太は分割でいいよ」
「ったく・・・」
そうは言ったものの、翔太はもう怒る気にはなれなかった。元々、やりたいゲームを買うのに人のお金をアテにした自分が一番ズルくて自分勝手だったんだ。それに、啓二は啓二なりにあの事を気にしていたから、わざわざこうやってゲームを買ってきたんだろう。
翔太は、公輝の方を見た。公輝もやれやれと言った顔をしながらも楽しそうである。
「わかった。じゃ、払うよ。その代わり、こないだ買ってたゲーム、公輝の次に貸せよな」
「いいよ。じゃ、3番目な」
その時、公輝が時計を見て慌てて叫んだ。
「やばい!!遅刻するぞ!!」
公輝が走り出すと、翔太もその後を追った。啓二は、カバンに急いでそのゲームを押し込んで2人の後を追いかけた。
「じゃ、今日の放課後、啓二ん家に集合な!!」
「おう!!」
「いいぜ!!」
朝日が照らす道には、3人の足音だけがパタパタと鳴り響いていた。
着信音が鳴った。
新着メールは、楢杉あかねのものだった。
『え?なんだろ』
暮れなずむ自分の部屋で、坂下正吾は戸惑いながら少しにやけてメールを開いた。
『ちょっと出てこれない?丘公園のブランコのとこにいる』
正吾は正直有頂天になっていた。
今日はバレンタインだった。
『もしかして告白とか~?』
正吾は、急いでマフラーを巻くと、部屋を出た。
「ちょっと、出てくる!」
母親に言い残すと、浮き足立ちながら自転車に乗った。
「これ」
佐伯純輝がワインレッドの包みを突きつけてきた。
放課後の教室、他にはもう誰も残ってはいなかった。
呼び出されて残っていた正吾は、ちょっと怪訝そうな顔をしたが、すぐに状況が飲み込めたようだった。
「え?チョコ?誰から?」
「え?誰からって?」
「だから、どこの女の子?」
「え・・ああ・・・楢杉」
「まじで?うそ、あいつも俺のこと好きって!?」
「・・義理かもよ」
「バカ、義理を、人に頼むかよ」
「そかな」
「ラッキー、サンキュー」
飛び跳ねながら教室を出て行こうとする正吾に、純輝があわてて声をかけた。
「あ、それ、あんまり周りに言って欲しくないみたいだから、内緒にしてって」
「わ~ってるって、お前も誰にも言うなよ」
「わかった~」
正吾が楢杉を好きなことは男子の間では有名だった。
正吾も、修学旅行なんかではっきりと公言していた。
楢杉自身、そろそろ噂を聞きつけているかもしれなかった。
ある意味、それは正吾の手でもあった。
周りからだんだんとそういう風な雰囲気にする。
また、そうすれば、他の男が不用意に彼女に声をかける事も少ないと思ったのだ。
ちょっとかっこ悪いけど、中学生の正吾だけあって考える事は浅はかだった。
好きだからどうしたいってのが具体的にあるわけではなかった。
ただ、恋に恋しているところもあって、彼女ってものにあこがれていただけかもしれない。
でも、なんか、そうやって好きな子を言ってまわる事が楽しくもあったのだ。
公園に着くと、楢杉はブランコにのって軽くクルクルと回っていた。
「待った?」
「ううん、呼び出したのあたしだし」
楢杉は、人なつっこい微笑を浮かべると、ブランコをとめた。
正吾はつられたように引きつって笑った。
「ん・・・寒いね」
正吾は隣のブランコに片足を乗せると、もう片方の足を少し浮かせたりつけたりした。
「そだね」
楢杉は、横に置いたかばんを探りながら、軽く答えた。
楢杉は、何かを後ろに隠して、正吾のほうを向いた。
正吾は、見当がつかなかったが、なんだか期待に満ちた顔で楢杉を見つめ返した。
しかし、次に発せられた言葉は、正吾の期待したものとは違った。
「あのさ、須貝さんの事、どう思う?」
「どうって・・・」
正吾は面食らった。
楢杉が何でこんな事を聞くのかわからなかった。
「嫌い?好き?」
「え・・・嫌いじゃないけど・・・」
「よかった~」
そういうと、楢杉は、後ろに隠し持っていたピンクの包みを差し出した。
「???」
面食らう正吾に、楢杉はますます混乱させる事を言い放った。
「これ、須貝さんから。渡して欲しいって。たぶん本命」
-どういうことだよ?なんで、楢杉がそんなの?え?なに?これ?-
混乱する正吾を尻目に、楢杉は再びかばんを探ると、小さなブルーの包みを取り出した。
「あとこれ、私から。義理だけど」
そういうと、楢杉は立ち上がった。
「ちゃんと、お返ししてあげてよ」
そういって立ち去ろうとする楢杉に、正吾はあわてて声をかけた。
「これ・・え?さっきのは?」
「え?」
楢杉は立ち止まって振り返った。
「何?」
楢杉の問いかけに、正吾は言いかけた言葉を飲み込んだ。
楢杉の顔は、何の疑問も感じてなかった。
「いや、なんでもない」
「じゃ、よろしく。私のお返しも忘れないでね~」
走り去る楢杉の後姿を見送りながら、正吾はその場に立ち尽くしていた。
目の前には3つの包みが積み上げられていた。
正吾は、机の上のその3つの包みの中から、水色の包みを取り上げた。
部屋の中は、かなり薄暗くなっていたが、電気はつけていなかった。
中から出てきたのは、小さな既製品のキティの包装のチョコレートだった。
『これは、直接楢杉から受け取ったんだから、楢杉のくれたものだ』
正吾は、その包みを置くと、次に、ワインレッドの包みを手に取った。
『じゃ、これはなんだよ』
正吾は、包みを開けた。
中には、高そうな薔薇の花びらをかたどったチョコレートセットと、小さなカードがついていた。
カードには、小さな薔薇のイラストと、「ずっと好きでした」という印字されたメッセージがついていた。
二つを並べて見比べてから、正吾はどかっと椅子にもたれこんだ。
しばらくそのまま天井を見つめた後、急に起き上がると、正吾は、残りのひとつの包みをつかんだ。
背もたれに体を預けたままで、包みを開けると、中からは、手作りのショコラケーキと手紙が出てきた。
手紙を開きもせず、包みごと机に軽く投げると、正吾は再び天を仰いだ。
「ちょっといい?」
声をかけた正吾の顔を見て、純輝はオーバーな位驚いた後、しばらく顔を見つめ、何かを読み取ったような顔で頷いた。
休み時間で、周りはそれぞれの話題でざわめいていた。
周りに楢杉や須貝の姿が無い事を確かめて、話を切り出そうとした正吾を、制止するようにして純輝は席を立ち、「こっち」とだけ言って教室を出た。
正吾は、純輝の後を追いかけた
二人は階段の最上階の踊り場に出た。
正吾は、純輝が何の話かわかっていることをなんとなく感じていた。
だから踊り場についても、しばらくは純輝が話し出すのを待っていた。
しかし純輝は、正吾のほうを見ず、ただ下を見て黙っているだけだった。
しびれをきらした正吾は、純輝に問いかけた。
「あのさ、俺、昨日、あの後楢杉に呼び出されてチョコもらったんだ。純輝、ホントは誰からあのチョコ受け取ったの?」
「・・・・」
答えない純輝に、いらだちながら正吾は、心の中に思い当たっていたことを切り出してみた。
「もしかして・・・、あのチョコ、お前が楢杉にもらったんじゃねーの?」
純輝はうろたえたような顔でそこで初めて正吾の顔を見、そしてまた下を向いてしまった。
正吾は、自分の考え通りだった事に少し落胆しながら、それでもなるべく純輝を傷つけないように気を使って話した。
「お前の・・気持ちはありがたいけど、俺、いくら好きな子が買ったものでも、気持ちが俺に向いてないものだったらうれしくないよ。」
純輝は下を向いたまま微動だにしなかった。
顔は真っ赤になっていて、なんとなく泣いているようにも見えた。
正吾は、可哀想になってきた。
それに自分としても友達のそんな姿を見るのは気まずかった。
そこでなんとかフォローしてこの場を離れようと思った。
「まあ・・・、俺は気にしてないし・・・、そういうお前の・・・気持ちはうれしいから、いくらお前が・・・楢杉の事、・・・好きじゃなくても、一応お返しはしといたほうがいいんじゃ・・・ね?」
言葉を選びながら正吾は自分の言いたいことをかろうじてまとめた。
そして、様子を見ながら、そろそろと後ろ向きに階段を数段下り、「じゃ、俺、行くな」と言い残して階段をそろそろと下りた。
2階まで降りてから、上を見上げて正吾は思った。
『泣くのは普通、俺のほうじゃねーの?』
教室に戻ってきて、なんだか、誰に対してだかわからないまま腹がたってきて、乱暴に次の授業の教科書を取り出すと机にたたきつけた。
周りの数人が驚いたように正吾に注目したため、気恥ずかしくなってきて、リズムを取るように教科書で机を数回叩いた。
楢杉が教室に戻ってきていて、須貝と話をしていた。
自分の事を話されているようで、やるせないような、情けないような、そんな思いで机に突っ伏した。
まだ、純輝は戻ってきてないようだった。
チャイムが鳴って、教室に人が戻ってきだした。
教室の中でも何人かは席に戻り、正吾もノートを開いて宿題の確認をしていた。
急に前に人が立ったので正吾は顔を上げた。
純輝だった。
驚いて何か言おうとした正吾に、純輝は少し強めの語気で言い放った。
「あれ、俺からなんだ!」
純輝の顔は真っ赤だった。
意味のわからない正吾は、あっけにとられて純輝を見つめた。
純輝は、それだけ言い放つと自分の席に戻り、机に突っ伏してしまった。
その姿を呆然と顔で追いながら正吾は、周りの「何?喧嘩?」という声で我に返って前を向いた。
ちょうど、先生が教室に入ってきて、号令がかかった。
「起立!礼!」
こっそり振り返ると、純輝は机に突っ伏したままだった。
「着席!」
席に着きながら、さっきの言葉の意味を考えていた。
教科書の文字が目に入ってきた。
「from me」
教科書の例文の手紙の最後は、「to you」で締められていた。
「おい!一緒に帰ろうぜ」
あれからずっと、休み時間は逃げるように教室を出て行ったため、声をかけることができなかった純輝を、やっとのことで捕まえた正吾は、逃げられないように腕をつかんでそう言った。
純輝は、無言のままだった。
自転車通学をしている純輝の自転車の後ろに正吾は乗った。
鞄が二人分あって不安定だったが、それはなんとか前カゴや膝に乗せる事ができた。
純輝の腰をつかむようにして風を感じていた正吾は、黙ったまま、あたりの景色を見まわしていた。
じっと前を見詰めて一心不乱に自転車をこぐ純輝も、黙ったままだった。
コンビニ横の道を折れ、裏道に入ったところで、人通りは少なくなってきた。
あたりは古い町並みと、きれぎれに畑や田んぼがちらばっていた。
「あのさー!」
正吾は前に聞こえるように大きめの声で叫んだ。
「さっきの話だけど、あれ、お前が俺のために買ってくれたって事ー?」
純輝は無言のまま、ペダルをこぐ力を強めた。
「ありがとー!」
急にスピードが遅くなった。
のろのろと進む自転車は二人の家に続く道の分岐点に着いた。
黙って鞄を下ろすと純輝は、そのまま自分の道に自転車を進めた。
その後ろ姿を見送っていた正吾はふいに声をかけた。
「純輝!」
自転車を停めてふり向いた純輝に、正吾は叫んだ。
「俺たち、今までどおりだよな」
純輝は軽く微笑んで再び自転車をこぎだした。
正吾は、自分の家に向かって歩き出した。
頭の中では、3人分のお返しをどうやって小遣いからひねり出すか考えていた。
ふいに携帯が震えて、正吾はストラップをつかんで引っ張り出した。
着信メールは純輝からだった。
『ありがとう』
携帯を折りたたむと、正吾は歩き出した。
-そうだ、純輝へのお返しは二人で遊びに行くことにしよう。俺がおごって・・・それってデートじゃん!-
そうは思いながらも、正吾はなぜかわくわくしながら計画を立てていた。
鞄を縦にぐるっと一回転させて、正吾は家に向かって走り出した。
新着メールは、楢杉あかねのものだった。
『え?なんだろ』
暮れなずむ自分の部屋で、坂下正吾は戸惑いながら少しにやけてメールを開いた。
『ちょっと出てこれない?丘公園のブランコのとこにいる』
正吾は正直有頂天になっていた。
今日はバレンタインだった。
『もしかして告白とか~?』
正吾は、急いでマフラーを巻くと、部屋を出た。
「ちょっと、出てくる!」
母親に言い残すと、浮き足立ちながら自転車に乗った。
「これ」
佐伯純輝がワインレッドの包みを突きつけてきた。
放課後の教室、他にはもう誰も残ってはいなかった。
呼び出されて残っていた正吾は、ちょっと怪訝そうな顔をしたが、すぐに状況が飲み込めたようだった。
「え?チョコ?誰から?」
「え?誰からって?」
「だから、どこの女の子?」
「え・・ああ・・・楢杉」
「まじで?うそ、あいつも俺のこと好きって!?」
「・・義理かもよ」
「バカ、義理を、人に頼むかよ」
「そかな」
「ラッキー、サンキュー」
飛び跳ねながら教室を出て行こうとする正吾に、純輝があわてて声をかけた。
「あ、それ、あんまり周りに言って欲しくないみたいだから、内緒にしてって」
「わ~ってるって、お前も誰にも言うなよ」
「わかった~」
正吾が楢杉を好きなことは男子の間では有名だった。
正吾も、修学旅行なんかではっきりと公言していた。
楢杉自身、そろそろ噂を聞きつけているかもしれなかった。
ある意味、それは正吾の手でもあった。
周りからだんだんとそういう風な雰囲気にする。
また、そうすれば、他の男が不用意に彼女に声をかける事も少ないと思ったのだ。
ちょっとかっこ悪いけど、中学生の正吾だけあって考える事は浅はかだった。
好きだからどうしたいってのが具体的にあるわけではなかった。
ただ、恋に恋しているところもあって、彼女ってものにあこがれていただけかもしれない。
でも、なんか、そうやって好きな子を言ってまわる事が楽しくもあったのだ。
公園に着くと、楢杉はブランコにのって軽くクルクルと回っていた。
「待った?」
「ううん、呼び出したのあたしだし」
楢杉は、人なつっこい微笑を浮かべると、ブランコをとめた。
正吾はつられたように引きつって笑った。
「ん・・・寒いね」
正吾は隣のブランコに片足を乗せると、もう片方の足を少し浮かせたりつけたりした。
「そだね」
楢杉は、横に置いたかばんを探りながら、軽く答えた。
楢杉は、何かを後ろに隠して、正吾のほうを向いた。
正吾は、見当がつかなかったが、なんだか期待に満ちた顔で楢杉を見つめ返した。
しかし、次に発せられた言葉は、正吾の期待したものとは違った。
「あのさ、須貝さんの事、どう思う?」
「どうって・・・」
正吾は面食らった。
楢杉が何でこんな事を聞くのかわからなかった。
「嫌い?好き?」
「え・・・嫌いじゃないけど・・・」
「よかった~」
そういうと、楢杉は、後ろに隠し持っていたピンクの包みを差し出した。
「???」
面食らう正吾に、楢杉はますます混乱させる事を言い放った。
「これ、須貝さんから。渡して欲しいって。たぶん本命」
-どういうことだよ?なんで、楢杉がそんなの?え?なに?これ?-
混乱する正吾を尻目に、楢杉は再びかばんを探ると、小さなブルーの包みを取り出した。
「あとこれ、私から。義理だけど」
そういうと、楢杉は立ち上がった。
「ちゃんと、お返ししてあげてよ」
そういって立ち去ろうとする楢杉に、正吾はあわてて声をかけた。
「これ・・え?さっきのは?」
「え?」
楢杉は立ち止まって振り返った。
「何?」
楢杉の問いかけに、正吾は言いかけた言葉を飲み込んだ。
楢杉の顔は、何の疑問も感じてなかった。
「いや、なんでもない」
「じゃ、よろしく。私のお返しも忘れないでね~」
走り去る楢杉の後姿を見送りながら、正吾はその場に立ち尽くしていた。
目の前には3つの包みが積み上げられていた。
正吾は、机の上のその3つの包みの中から、水色の包みを取り上げた。
部屋の中は、かなり薄暗くなっていたが、電気はつけていなかった。
中から出てきたのは、小さな既製品のキティの包装のチョコレートだった。
『これは、直接楢杉から受け取ったんだから、楢杉のくれたものだ』
正吾は、その包みを置くと、次に、ワインレッドの包みを手に取った。
『じゃ、これはなんだよ』
正吾は、包みを開けた。
中には、高そうな薔薇の花びらをかたどったチョコレートセットと、小さなカードがついていた。
カードには、小さな薔薇のイラストと、「ずっと好きでした」という印字されたメッセージがついていた。
二つを並べて見比べてから、正吾はどかっと椅子にもたれこんだ。
しばらくそのまま天井を見つめた後、急に起き上がると、正吾は、残りのひとつの包みをつかんだ。
背もたれに体を預けたままで、包みを開けると、中からは、手作りのショコラケーキと手紙が出てきた。
手紙を開きもせず、包みごと机に軽く投げると、正吾は再び天を仰いだ。
「ちょっといい?」
声をかけた正吾の顔を見て、純輝はオーバーな位驚いた後、しばらく顔を見つめ、何かを読み取ったような顔で頷いた。
休み時間で、周りはそれぞれの話題でざわめいていた。
周りに楢杉や須貝の姿が無い事を確かめて、話を切り出そうとした正吾を、制止するようにして純輝は席を立ち、「こっち」とだけ言って教室を出た。
正吾は、純輝の後を追いかけた
二人は階段の最上階の踊り場に出た。
正吾は、純輝が何の話かわかっていることをなんとなく感じていた。
だから踊り場についても、しばらくは純輝が話し出すのを待っていた。
しかし純輝は、正吾のほうを見ず、ただ下を見て黙っているだけだった。
しびれをきらした正吾は、純輝に問いかけた。
「あのさ、俺、昨日、あの後楢杉に呼び出されてチョコもらったんだ。純輝、ホントは誰からあのチョコ受け取ったの?」
「・・・・」
答えない純輝に、いらだちながら正吾は、心の中に思い当たっていたことを切り出してみた。
「もしかして・・・、あのチョコ、お前が楢杉にもらったんじゃねーの?」
純輝はうろたえたような顔でそこで初めて正吾の顔を見、そしてまた下を向いてしまった。
正吾は、自分の考え通りだった事に少し落胆しながら、それでもなるべく純輝を傷つけないように気を使って話した。
「お前の・・気持ちはありがたいけど、俺、いくら好きな子が買ったものでも、気持ちが俺に向いてないものだったらうれしくないよ。」
純輝は下を向いたまま微動だにしなかった。
顔は真っ赤になっていて、なんとなく泣いているようにも見えた。
正吾は、可哀想になってきた。
それに自分としても友達のそんな姿を見るのは気まずかった。
そこでなんとかフォローしてこの場を離れようと思った。
「まあ・・・、俺は気にしてないし・・・、そういうお前の・・・気持ちはうれしいから、いくらお前が・・・楢杉の事、・・・好きじゃなくても、一応お返しはしといたほうがいいんじゃ・・・ね?」
言葉を選びながら正吾は自分の言いたいことをかろうじてまとめた。
そして、様子を見ながら、そろそろと後ろ向きに階段を数段下り、「じゃ、俺、行くな」と言い残して階段をそろそろと下りた。
2階まで降りてから、上を見上げて正吾は思った。
『泣くのは普通、俺のほうじゃねーの?』
教室に戻ってきて、なんだか、誰に対してだかわからないまま腹がたってきて、乱暴に次の授業の教科書を取り出すと机にたたきつけた。
周りの数人が驚いたように正吾に注目したため、気恥ずかしくなってきて、リズムを取るように教科書で机を数回叩いた。
楢杉が教室に戻ってきていて、須貝と話をしていた。
自分の事を話されているようで、やるせないような、情けないような、そんな思いで机に突っ伏した。
まだ、純輝は戻ってきてないようだった。
チャイムが鳴って、教室に人が戻ってきだした。
教室の中でも何人かは席に戻り、正吾もノートを開いて宿題の確認をしていた。
急に前に人が立ったので正吾は顔を上げた。
純輝だった。
驚いて何か言おうとした正吾に、純輝は少し強めの語気で言い放った。
「あれ、俺からなんだ!」
純輝の顔は真っ赤だった。
意味のわからない正吾は、あっけにとられて純輝を見つめた。
純輝は、それだけ言い放つと自分の席に戻り、机に突っ伏してしまった。
その姿を呆然と顔で追いながら正吾は、周りの「何?喧嘩?」という声で我に返って前を向いた。
ちょうど、先生が教室に入ってきて、号令がかかった。
「起立!礼!」
こっそり振り返ると、純輝は机に突っ伏したままだった。
「着席!」
席に着きながら、さっきの言葉の意味を考えていた。
教科書の文字が目に入ってきた。
「from me」
教科書の例文の手紙の最後は、「to you」で締められていた。
「おい!一緒に帰ろうぜ」
あれからずっと、休み時間は逃げるように教室を出て行ったため、声をかけることができなかった純輝を、やっとのことで捕まえた正吾は、逃げられないように腕をつかんでそう言った。
純輝は、無言のままだった。
自転車通学をしている純輝の自転車の後ろに正吾は乗った。
鞄が二人分あって不安定だったが、それはなんとか前カゴや膝に乗せる事ができた。
純輝の腰をつかむようにして風を感じていた正吾は、黙ったまま、あたりの景色を見まわしていた。
じっと前を見詰めて一心不乱に自転車をこぐ純輝も、黙ったままだった。
コンビニ横の道を折れ、裏道に入ったところで、人通りは少なくなってきた。
あたりは古い町並みと、きれぎれに畑や田んぼがちらばっていた。
「あのさー!」
正吾は前に聞こえるように大きめの声で叫んだ。
「さっきの話だけど、あれ、お前が俺のために買ってくれたって事ー?」
純輝は無言のまま、ペダルをこぐ力を強めた。
「ありがとー!」
急にスピードが遅くなった。
のろのろと進む自転車は二人の家に続く道の分岐点に着いた。
黙って鞄を下ろすと純輝は、そのまま自分の道に自転車を進めた。
その後ろ姿を見送っていた正吾はふいに声をかけた。
「純輝!」
自転車を停めてふり向いた純輝に、正吾は叫んだ。
「俺たち、今までどおりだよな」
純輝は軽く微笑んで再び自転車をこぎだした。
正吾は、自分の家に向かって歩き出した。
頭の中では、3人分のお返しをどうやって小遣いからひねり出すか考えていた。
ふいに携帯が震えて、正吾はストラップをつかんで引っ張り出した。
着信メールは純輝からだった。
『ありがとう』
携帯を折りたたむと、正吾は歩き出した。
-そうだ、純輝へのお返しは二人で遊びに行くことにしよう。俺がおごって・・・それってデートじゃん!-
そうは思いながらも、正吾はなぜかわくわくしながら計画を立てていた。
鞄を縦にぐるっと一回転させて、正吾は家に向かって走り出した。
こんにちは、河北淳平です。
普段から、文章を良く書いているのですが、不特定多数の方に読んでもらえるという興味に引かれて、ブログをすることにしました。
あまり、更新スピードは速くありませんが、よろしければ感想お願いします。
ではでは。