※お断り:筆者は放射線の専門家ではありませんので、内容に間違いがある可能性があります。参考にされる際はご自身でソースを当たって検算なり、事実の確認をお願いします

甲状腺等価線量の算出について以前にポストしたが、その結果と、原子力安全委員会の算出根拠となっているはずの前提条件とが合致しないことが気になって調べ続けてきた。

信頼できる専門家の意見としてあげる人が多い東大病院で放射線治療を担当するteam_nakagawaのブログに、参考になる投稿がある。

「暫定規制値」とは
http://tnakagawa.exblog.jp/15130051/


数値を交えた説明は一見するととても丁寧で、うっかりしていると納得してしまいそうになるが、実際に計算していくなかで疑問が浮かび上がってきた。

放射性ヨウ素の暫定基準値の算出の前提としては、限度となる甲状腺等価線量を50mSvとし、その2/3を飲料水・牛乳および乳製品・野菜(根菜・芋類を除く)の3つの食品カテゴリーから摂取すると仮定している。つまり50×2/3=33.33mSvである。

さらに3つのカテゴリーからそれぞれ均等に摂取すると仮定するので、各カテゴリーごとに33.33mSv÷3=11.11mSvとなる。つまり、水で11.11mSv、牛乳・乳製品で11.11mSv、野菜で11.11mSvをそれぞれ上限として設定している。

ここまでは自分の理解通り。
問題はここからだ。

これまでぼくは、テレビに登場する専門家や政府の言う「一年間ずっと食べ続けたとしても問題のないレベル」という言葉や、あるいは原子力委員会の文書等から、暫定規制値・基準値(Bq/Kg)×日本人の年間摂取量(Kg)×甲状腺線量係数(mSv/Bq)という計算を頭に浮かべていたのだが、これは大いなる勘違いだったようだ。

team_nakagawaは、計算方法について以下のように説明している。

1年間の甲状腺被ばく上限値11.1mSv(ミリシーベルト)に対して、「成人、幼児、乳児」の、「水、牛乳等、菜類」で許容される1キログラムあたりの放射能(ベクレル〔Bq/kg〕)は、時間とともに放射能が次第に減少することを考慮した式を用い、「水、牛乳等、菜類」の摂取それぞれから、1年間あたり11.1mSv(ミリシーベルト)を被ばくの上限として、「許容放射能量」を決めています。

「時間とともに放射能が次第に減少することを考慮」という文章からは、普通、内部被曝によって受ける放射線量が、半減期とともに減少していくことを考慮する、という風に読んでしまうのではないだろうか? しかしこれは間違った解釈であることは、team_nakagawaの提示した例を見れば明らかだ。

team_nakagawaは、飲料水を例に、次のような数値をあげている。(簡略化するために成人のみ転記する)

甲状腺等価線量換算係数
成人0.00043

水の摂取量
成人1.65kg

許容放射能量
成人1270(Bq/Kg)

これを、もし、許容放射能量=1270(Bq/Kg)の水を、一日1.65(Kg=リットル)ずつ、365日飲んだとして計算すると、764857.5(Bq)となり、換算係数をかけると、328mSvにもなってしまい、前提条件の11.11mSvとはかけ離れた数字になる。

では、どのように計算しているのか。
そのリーブナブルな答えは、化学系の教員をされているという以下のサイトで得られた。

team nakagawa 『「暫定規制値」とは』の説明について
http://blog.goo.ne.jp/chemist_at_univ/e/19ec2b0757777656a339ba710d4308d9



この方も当初は私と同様に考えてらっしゃったようだが、Makirinさんという別の方のコメントをヒントに納得のいく説明に辿りつかれたようだ。

感覚的には、上記サイトにある図が参考になるが、暫定規制値となる水を摂取するのは瞬間的なものであって、その後は半減期に従って放射線量が減っていくモデルである。「時間とともに放射能が次第に減少することを考慮」というのは、水道水の放射能が半減期によって減って行きますよ、ということなのだ。

もっと分かりやすく言うと、原発が爆発するなどの事故によって一度だけ放射線物質がドッと放出され、その後は半減期によって放射線量が下がっていくというモデルのようであって、今回の事故のように原発からダラダラと放射性ヨウ素が出続けることを想定していないのだ。

実際に計算してみよう。

1270(Bq/Kg)×8.05(day)×1.5×0.00043(mSv/Bq)×1.65(Kg/day)=10.88mSv

※1270×8.05×1.5は放射線量の総計。半減するものの積分で、おおよそ半減期×1.5倍

10.88mSv は、前提となる年間11.11mSv以下に収まっている。

これは問題である。
なぜなら、世の人々は「暫定基準値の水をずっと飲み続けても健康上問題ない」と信じているが、事実は、少なくとも算出の前提は違っているからだ。

正確な説明の上で「安全」というのであればいい。
しかし、実際にはテレビで専門家としてコメントしている先生方さえ、もしかしたら文書をチラっと見て分かった気になっているだけで、実は正確に理解されていないんじゃないかと疑いたくなる。

ちなみに、官房長官が何度も「直ちに健康に影響があるレベルではない」と強調していた、乳児のための飲料水の暫定規制値である100Bq/Kgが一年間ずっと続いたとすると、72.562mSvとなってしまう。
(team_nakagawaのブログにあった摂取量0.71(Kg/day)を適用)

これが、11.11mSvよりもはるかに大きいということは誰の目にも明らかだ。


※お断り:筆者は放射線の専門家ではありませんので、内容に間違いがある可能性があります。参考にされる際はご自身でソースを当たって検算なり、事実の確認をお願いします。また、間違いがある際にはご指摘ください。
割と好きで見てしまう毎月最終金曜の深夜に放送される番組でのことだ。
せっかくの議論の場だというのにパネリストに原発反対派の姿はなかったことから、討論にはならないことはすぐさま予想出来たが、思った以上に内容が脆弱だった。

とくに気になったことは、食品の暫定基準値の話題である。
ある放射線の研究者曰く、暫定基準値は年間の積算量が重要だから、基準値を単体で見るのはなく、面積で見るべきだと。これに同調して、文系は○か×だから困りもので、科学には○でも×でもない中間の領域というものがあるのだと言い出す者もいた。

正論である。基準値の算出方法を考えれば、放射線量が瞬間的に多少超えたところで、次の瞬間にそれ以上に下がる保証があるなら何の問題もない。年間を通じた積算量が定められた数値を超えていなければいいのだ。

けれども、実際にはそうはいかない。なぜなら、一般市民は放射線管理区域の中で働く人々とは違って、メーターをぶら下げて生きているわけではないからである。いちいち、いま食べたものが何ベクレルだから、放射性ヨウ素は何シーベルト、放射性セシウムは何シーベルト、そのほかにストロンチウムがどれだけあって、今年はあと何シーベルト分余裕があるはず、などと計算することはないし、そもそも口に入るものが、吸入する放射性物質が、外部被曝がどれだけあるのかを、実際に把握することは出来ない。だからこそ、国が厳格な基準を作り、その基準範囲内のものを食べている限りは健康が守られることが保証される。基準値の上限域の物を摂取し続けても問題がないように設定することになるから、仕組み上、安全域の余裕が多くなることは仕方ない。その数値を、政府や学者が過小評価することは、今回の措置を無意味なものにしてしまう危険な行為である。

だから、先の研究者の意見は正しいけれども、ほとんどの国民にとっては食の安全をまるで保証してくれない。しかも、その意見に対して、行政としてはこうするしかないでしょう、という声が著名なジャーナリストや学者様たちから上がることがなかったという事実は、残念でならない。彼らの関心事は経済ばかりで、食の安全など考えていないのか。

(追記4/1)
その後のポストで触れたように、暫定基準値の前提が「一度だけ放射性物質が吐き出された場合」であることから、件の研究者の認識は正しくないことが判明。彼は、番組の中で、基準値を縦軸、時間を横軸に取って、基準値としてまっすぐな横線を引き、その線とグラフの下線に囲まれた面積の中に収まれさえすれば問題ないという説明をしていたのだ。これは、明らかに一年間ずっと基準値の汚染飲食物を摂取する、という基準値算定の前提に対する理解(誤解)から来るものである。
 暫定基準値以上の放射能を検出した農産物が次々に出荷停止となっている。風評被害の発生を含め、政府の対応について非難する声もあるようだが、安全を期する上では仕方のない状況だと思う。ただし、政府は事後ではなく、いますぐ農家に一時的な補償金を支払うべきだろう。本来ならば出荷するこの時期に収入をあてにしていた農家も少なくないはずだ。

 被害を被る農家への補償とともに気がかりなのは、汚染野菜の行方である。出荷停止だけでなく、摂取制限措置が執られている農産物が人間の口に入ることはないだろうが、その廃棄に関してはどうなっているのだろう? 土中に埋めているのだろうか? 野菜には放射性物質が含まれているのだから、土に還してしまっては土壌が再び放射線源となってしまう。半減期の長い放射性セシウムなどは土壌→野菜→土壌と廻るだけで、一向に浄化されないことになりかねない。また、焼却したとしても、放射性物質が空気中に散らばるだけでこれまた危険である。

 土壌中の放射性物質については、ほうれん草などのアカザ科の植物やひまわりなどによって除去することが出来るらしい。もちろん、この場合の除去とは、植物が自らの中に吸収していくことを指す(つまりはほうれん草の表面を洗っても意味がない、ということでもある)。今後は、植物による土壌の浄化が盛んになると共に、放射性物質を吸い上げた汚染植物の処理方法が問題になってくることは間違いない。特殊な焼却施設の新設が必要になるのだろうか。政府には早急な計画の提示が望まれる。