スティーブン・キングは自作が映画化されるたびに、その作品に対して批判めいたことを口にする。しかしフランク・ダラボン監督はお気に入りのようだ。「ショーシャンクの空に」「グリーン・マイル」と続いて、この「ミスト」はキング作品3作目だ。前2作の原作は僕も読んでいるが、映画は原作に忠実に作られている。なおかつ二つとも名作と言っていいほどの出来だ。だから今回も期待して観た。
デヴィッド(トーマス・ジェーン)は8歳の息子ビリーとスーパーマーケットへ行く。スーパーで買い物をしていると、街全体が謎の霧で覆われてしまった。霧で視界はゼロとなったが、霧の中に恐ろしい怪物が潜んでいることが断片的に分かってくる。デヴィッドは、スーパーにいる人たちに警告するが、一部は耳を貸さない。それどころか「これは神の罰だ」とのたまう狂信者の女の言葉に耳を傾けるようになっていく。
昨日観た「アイアムアヒーロー」もそうだったけど、ゾンビやパニック映画の舞台でショッピングセンターが使われている率はかなり高い。立てこもるのに、食料がたくさんあるというのは心強く感じるからか。それが自分一人だとけっこう楽しいのかもしれない。ただ、それが集団になると、この映画のように面倒くさいことになる。漫画「サバイバル」は名作だと思うが、本当に面白いのは主人公さとるが一人でサバイバルする前半パートだ。生き残った他の人々が絡んでくる後半パートは、人間の愚かさが際立っていて不快だった。
この映画のメインは、霧の中の怪物にあるのではなく、集団心理の恐ろしさにある。はじめは狂信者のおばちゃんが喚いても、みんな小ばかにして嗤っていた。しかし何度も恐怖が積み重なってくると、大半の人がおばちゃんの言うことを信じ始める。最終、殺人も、いけにえを捧げることにも同意するようになる。この過程の描き方が恐い。
集団というものは恐ろしい。大体において、民主主義の基本となる多数決も、決して正しい結末を導くとは限らない。だから、トランプ氏がアメリカ大統領となったり、イギリスがEU離脱を決めたりが起こるのだろう。本当の賢者とは往々にして寡黙なもの。でも集団というものは、正しくない者であっても、けっこう声の大きな者に従う習性があるような気がする。みなさんの周りでもそんなことってないですか?
映画のラストは原作とは変えてある。本来なら原作と違うことをキングは嫌う。でもダラボン監督がこのラストを考えつき、キングに許可を求めたら、あっさりと了承された。そしてキングは「僕がそれを思いつくべきだった」とまで言わせたそうだ。それくらいラストの衝撃はすごい。ネタバレになるので多くは言えないが、主人公デヴィッドはラストで救われた。…はずなのに、そのこと自体がデヴィッドを絶望に突き落としてしまう。
田中 徹矢
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