angel smile -2ページ目
【1】私は今、荒廃したコンクリートの塊の群れの中で、睨み合う。
後ろには我が子達がないている。そして今何よりの問題は目の前に逃がさないよう囲む狼の群れ。
ジリジリと詰め寄られ、とうとう壁まで追い詰められた。
チラッと、後ろを見た瞬間を狼達は見逃さず、視線を前に戻した時には飛び掛かってきていた。
私は咄嗟に足を前にだし、反撃にでる。
ただ子どもだけは守りたいそれだけだった。無我夢中で足を振り回し、噛まれ、引っ掻かれ、それでも食らいついた…。
それから私が地面に倒れ動けなくなるのは一瞬だった…。
身体中熱く、頭の中は後ろの子ども達でいっぱいで、このあとを考えるとただただ悔しかった。
そんなとき自分に影がかかるのを感じた。
影がかかってから狼達の声は次第に小さくなり、僅かに残った力で目をあけ確認した。
「なんだニンゲンか…。」
私は近くでミーミーと鳴く子ども達の声を聞きながら、私の体にニンゲンの手の温もりを感じながら睡魔に身を任せて目を閉じた。
【2】俺は、必要とされなくなった建物の隙間を歩いている。建物の中は荒れ、必要がなければ入りたくはない。
子猫達がひょこひょこと早足になりながらついてきているのを確認して、足を止め道のすみに座る。
リュックから飲み物と食べ物をだし、周りでうろちょろしてる子猫達と昼飯をとることにした。
美味しそうに食べているのを見ながら、
―なんで助けちゃったんだろう。今は自分だけでも精一杯な状況で。―
薬指にはめた指輪を触りながら、少し考えたあと、俺は一緒に食べ始めた。
「まだまだ遠いからな。」
聞いてるのか聞いてないのか、理解してるのか理解してないのか、子猫達はこちらにお構い無しに一生懸命食べ続けてる。
俺は、ため息を軽くついて、 空を見上げ雲がゆっくり動いているのを感じながら目を閉じた。
しばらくして静かな空間に、ミーと鳴き声がし、目をあけるとあくびをしながらこっちを見ている。
「さて、行くか」
服についた砂をはらって、道を歩き始めた。
【3】少し前、僕は退屈だった。ずっとここに座って、綺麗なモニターに映った皆の行動を見ているのかと思うと、退屈でしかたなかった。
ある日、モニターに動物を可愛がる女の子が映った。僕は確かに心惹かれるのを感じた。それと同時に叶わない恋と言うことも気付いていた。
だから、せめて幸せになれるよう願った。
その日から、仕事を忘れ、その子ばかりモニターで見てしまっていた。
僕は平等に皆を見て、皆、仕事がずっと出来るように、必要なら手を出すことが仕事だった。
僕が仕事を忘れてしまていった時間は僕が思う以上に重かった。
僕がよそ見している間、あるモニターでは研究者が一生懸命自分たちに必要な研究をしていたはずだった。
結果として、研究は予期せぬ方向へ加速していった。
新たな細菌を作り、それは流出し、大気に残り続け、凄まじいスピードであらゆる生物に死を拡げた。
僕はこの状況を彼女のモニターで異変を知ることになる。
彼女の大切な人たちがバタバタと倒れ、彼女の涙を見た時、やっとその重さに、そして僕が誰より幸せを願った人を泣かせてしまったことに気付いた。
それでも、彼女は一生懸命生きていた。
たぶんこうなる前、遠く離れた恋人の事を思ってるんだろう…。
しかし、僕は知っていた。
僕の前のモニターでは子猫が返事のない人に必死に鳴いている。
「ごめん…。」
僕の声は誰にも届かない。
「ごめん…。」
この悶々とした気持ちの中僕は、決めた。僕は残ってしまった子猫を彼女の元に送る事を。
傲慢かもしれないけどただ、力になってくれるように…。

しばらくすると、他の神が僕のもとに現れた。理由は僕がよく知っていた。
僕の仕事のルールは、世界のルール。全てに平等で誰か一人ではなく、全ての生物の為に力を使うこと…。それは今も十分理解している。
それでも僕は…。
眩い光を放ち、モニター室は誰も見ることのないモニターを置いたひどく退屈な部屋になった。
【4】あたしは、待っていた。寂しいこの世の中で一緒に笑うことを願った彼を。
ここは、生き残った人たちが協力しながら生きているシェルターだ。
亡くなってしまってしまった人のような症状は一切出ることもなく1ヶ月たち、不便を感じながらも生活は出来ている。
皆、毎日係を決め協力しながら生きてきた。
あたしは、外に出て食べ物になりそうな物を探しにいく係だった。
あたしは建物を出て、獣対策の柵を越え、近くの町だった区域を探す事にする。
地図を見ながら、探した区域にマークをし、次に進む。
そんなことを何回か繰り返した頃だろうか、突然空から強烈な光が辺りを照らした。
その光は直接見たわけでもないのに、一瞬であたしの目を眩ませる。

しばらくたつと視覚が戻ってくるのを感じゆっくり目を開く。
目の前の道には、ぐったりと横になっている子猫がいた。
あたしは駆け寄り、子猫の様子を確認する。
足に怪我はしているみたいだがもうすでに誰かに応急措置はされているようで、男物のハンカチが足に巻いてある。
ゆっくり他の場所を確認する。あたしは首に目が止まった。
首輪と言うのが正しいのかはわからないがネックレスチェーンが子猫の首にぐるぐる巻いてあり、そこに指輪がかかっている。

ドクンと脈打つ。

その指輪はあたしのよく知った形であり、あたしの薬指につけている物と同じ形だった。
子猫が起きるまでこぼれ落ちる涙を止める事が出来なかった。

猫がこっちを見て、ザラザラとした舌をあたしの顔にあてる。
「一緒だね。ありがとう。」
そう言いながら、あたしは子猫とシェルターに戻ることにした。

あたしのお腹に猫嫌いの彼の子どもがいることに気づくのはもう少し先のことだった。