私には悩みがある。流されやすいことだ。何度も治そうとしたけど、とうとう治らなかった。


 本を読めば、自分も本を書きたくなる。映画を観れば、自分も映画を撮りたくなる。誰かが泣いていると、自分も泣きたくなる。誰かが怒ってると、自分もイライラしてくる。少女漫画や恋愛映画を観ると、恋がしたくなる。ちょっと男の人と話すと、すぐに好きになってしまう。


 自分のこういうところが本当に嫌なのだ。本を読んでも、映画を観ても、「面白かった」だけで終わりたい。誰かが泣いてても、振り回されずにいたい。誰かが怒ってても、冷静でいたい。恋愛映画を観ても、「こんなん現実にあるわけないじゃん」と言いたい。男の人と話しても、普通に楽しいだけでいたい。


 特にうんざりするのは、自分の惚れっぽさである。私は男の人が好きで好きで仕方ないらしい。もはや話さなくても、笑顔を見ただけで、胸が苦しくなるほど男の人が愛おしくなることがある。こうしたトキメキは言わば性欲に近いものであって、本当の恋や愛じゃない。だから嫌なのだ。




 数日前、サークルの先輩たちとカラオケに行った。男の先輩もいた。彼が歌うたびに、女の私には出せないような低い声が、体にずんずん響いてきた。それが幸せだけど、ちょっと嫌だった。また偽物の恋に落ちそうだったからだ。


 ちなみにその日、私は『夏祭り』を歌ったのだが、恋も失恋もしていないのに、なんか失恋したような気分になって、泣きそうになってしまった。ひどいもんだ…。


 母には何度か、「なんか まどか、詐欺とか宗教勧誘とかに引っかかりそうだよね。気をつけてね」と言われたことがある。


 母は、妹には絶対そんなことを言わない。妹は流されにくくて、しっかり自分を持ってるし、惚れっぽくもない。私と違って、きっと本物の恋や愛がどんなものかも分かっている。私は大学生で、妹は小学生なのに。母に心配されていることも、妹より幼稚で単純なことも、悲しくて悔しくて仕方ない。




 そういえば、前に『白雪姫』を観ていたとき、白雪姫が魔女の口車に乗せられて毒リンゴを食べてしまったシーンで、母は、「まどかもこんなふうになりそう…気をつけてね」と言っていた。確かに、私と白雪姫は似ているかもしれない(悲しいことに、容姿はさっぱり似ていないが)。


 とはいえ、白雪姫の流されやすさはまだマシな方である。私が主人公であった場合、王子さまどころか、7人の小人 全員にときめいているであろう(実際 映画を観ているとき、小人たちにかなり ときめいていた)。




 誰か願いを叶えてくれるなら、私のことを、感情に流されにくい人間に変えてください。




 …実はこれを書いている間も、前を通りがかったカッコイイ男の人に見惚れてしまっていた。願いは叶いそうにないのであった…