こんにちは、あすなろまどかです。

 

 

 今回は、アメリカの作家レズリー=レイ=エルトンが書いた『Sad Deed』という小説を翻訳し、『烏(カラス)』という邦題で掲載します。

 

 それでは、どうぞ。

 


 

  

 

 よく晴れた日に空を見上げると、空がしわくちゃになっていることがあります。


 それはアメリカとか、フランスとか、イタリアとか、イギリスとか、日本とか、そういう国で起こるのではなくて、『キング王国』だけで起こります。


 地球の空とは、全て繋がっているものです。

 ところがたまに、ある国の上の空が、他の空と切り離されていることがあるのです。


 その国の名が、キング王国です。

 空と切り離されているときが、キング王国のしわくちゃの空です。


 キング王国を知っている者は、そこに住んでいる者だけです。空が切り離されていないときでさえ、他の国の者は、その空を知りません。


 さて、キング王国の広い海に、背の高い、顔立ちの整った少女が、素足を入れました。少女はこの国のご息女で、名をダイアナといいました。





 彼女のきゃしゃな体は、まるで山脈に降り積もった雪のようでした。瞳は、落ち着いていて思慮深い、ずっと見つめていると恐ろしくなってしまうくらいの濃い海色です。頬は、夕方の空を混ぜ込んだ丘の色をしていました。


 ひざっこぞうまで海の波に浸かったダイアナは、バケツを持った、白くて美しい手を真っ赤にさせながら、指にぐうっと力を込めました。そうして、海の水を汲んだのです。


 キング王国では、海をかき集めて、電話の受話器を作ります。その仕事を今、ダイアナがやっているのです。

 



 あ、ダイアナの仕事が終わりました。ほら、美しい足を、海から抜いたのが見えたでしょう?


 仕事を終えたダイアナは、息抜きに、波で遊ぶことにしました。

 ダイアナは白い波をひっつかむと、空に投げました。波は空にくっつき、雲になりました。


 今日の空は、しわくちゃでした。


 子供が握ってぐちゃぐちゃになったテーブルクロス。

 あるいは、胸ぐらをつかまれて、しわしわになってしまった服。


 そんな具合の空に、何かがぽつんとあり、ダイアナはそれを見ました。それは動いているようです。


 ダイアナはそれが何だか分かると、「しめたッ」と思って、背中にしょっていたカゴから矢を抜き、放ちました。


 落ちてきたものをナイフで切り刻み、中に手を入れました。


 それは、カラスでした。ダイアナはカラスを殺し、その体から心臓を取るのも、仕事だったのです。


 ダイアナは取った心臓を見つめ、そして、心臓を握りつぶしました。

 心臓からは、新鮮な水がたっぷり五リットル出てきました。血は、出てこなかったのです。


 ダイアナが待っていたのは、この水でした。血は期待していませんでした。


 この国では、人間は海の水をろ過して、飲み水として利用します。電話の受話器を作るためには、海の水を使わなければなりません。その結果、人間は飲み水を失ってしまいます。


 そのため、王族はカラスを殺してその心臓から水を出し、人々に分け与えるのです。キング王国のカラスの心臓には、水が溜まっているのです。

 



 ダイアナは、間違いなく良い人間です。生まれ持っての善人であり、人や物を傷つけたいなどとは微々も思わない女の子です。


 しかし、そんなダイアナでも、カラスを殺すのです。国のために、人のために。この王国の息女として。

 



 ダイアナは大喜びで、カラスの心臓を大事に持って、宮中へと帰っていきました。

 また一羽、カラスがカーカーと、東の空へ飛んでいきました。

 

 〜おしまい〜





 〜あとがき〜


 本当のことを告白すると、レズリー=レイ=エルトンなんて、実際には存在しない人物であります。


 あすなろまどかという人物が、いかにもそのような作家がいるように仕立て上げたのです。