クリスマスの時期にそぐわず、真夏の小説を投稿します^^;
今回は、小説「クリムルーレの花」の続編「キャンコロトンの森」の第7章です。
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第7章 決裂
次の日、アンダリがこんなことを言った。
「今日はとっても素敵な日になること間違いなしよ!」
「何があるって言うのよ。」フィーダは、アンダリの言葉にかぶせるようにして、生意気そうに尋ねた。
もちろん、ほんとうは何があるかなんてどうでも良かったのだ。とにかくアンダリの言葉を邪魔し、アンダリの機嫌を悪くさせられたら、他のことはどうでも良かった。
しかしアンダリは、機嫌を悪くすることなど知らないようだった。変わらず明るい口調で、「今日はね、私の十八歳の誕生日なのよ!」と答えた。
タットとシャウィーは、口々に「おめでとう!」と述べて拍手をした。フィーダだけが何も言わず、ふてくされてため息をついたのは、言うまでもない。
「それでね、」アンダリは、楽しみに頬を紅潮させながら言った。「私の友だちが、誕生日パーティーを開いてくれるの。あなたたちもぜひ楽しんで!」
「冗談じゃないわよ。」フィーダは、かなりいらいらしていた。「なんであんたの誕生日を、私が祝わなきゃなんないのよ。
友だちがたくさんいるんでしょ? 良かったですねえ、お幸せそうで! ヘラヘラしちゃって、気味が悪いわ!」
これには、さすがのアンダリもいくらか気を悪くして、「分かったわ。そんなに私が嫌いなら、帰ってくれてかまわないわよ。」と答えた。
「俺はいるぜ。」シャウィーは急いで言った。「俺はこんな女とは違うんだぜ、アンダリ。あんたの誕生日を祝いたい。」
「ありがと、シャウィー。」アンダリは嬉しそうに微笑むと、壁にかけられた時計を見た。「もうすぐ来るわ。」
フィーダはぎょっとした。そうだ、アンダリの友人はこの家に大勢来るのだ。当たり前のことを忘れていた。
フィーダの心臓は、ばくばくと不穏な音を立て始めた。どうしよう、どうしよう。人がいっぱい来る。どうしよう。恐怖で動くことも家を出ることもできず、フィーダは打ち震えた。
その様子に、タットは気が付いた。これまでもずっと、タットは三人から少し離れた場所に立って、じっと愛するフィーダを見守っていたのである。
フィーダのただならぬ様子をタットは心配し、彼女に声をかけようとした。
そのときだった。たくさんの足音と、愉快な話し声が近付いてきたのは。アンダリとシャウィーは、わくわくして扉を見つめた。
次の瞬間、その扉が開いて、約十人の男女がわらわらと入ってきた。狭い小屋の中が、突然賑やかになる。
それはアンダリにとっては喜びの光だったが、フィーダにとっては恐怖と不安の波だった。
みんながアンダリを取り囲み、「誕生日おめでとう!」とさけんでいる。クラッカーが鳴らされ、誰かがぴゅうっと口笛を吹いた。
フィーダが真っ青になって震えていると、そのうちの誰かがフィーダにぶつかった。その人はぶつかったことに気付かず、アンダリの元へ駆けつけた。
それほど強くぶつかったわけでもないのに、フィーダはバランスを崩し、よろめき、その場に倒れてしまった。
その瞬間、フィーダの頭の中で、母に突き飛ばされた記憶がよみがえった。フィーダはとっさに頭を守り、この場にいないはずの母の平手打ちに身構えた。
フィーダの転倒に気が付いたのは、タットただひとりだけだった。
他の者は、フィーダが転んだときの音にも、フィーダが転んだことも気付かなかった。パーティーの始まりのクラッカーの音と、バースデー・ソングの歌声の方が大きかったからだ。
フィーダは顔色が青を通り越して白くなり、それと同時に耐えきれなくなり、野獣のようなうなり声を上げながら、近くにいた青年を突き飛ばした。
周りの数人がそれに気付き、笑顔が固まった。
そんな数人に、また別の二、三人が気付き、ざわつきながら顔をしかめた。そんな調子ですぐに全員がフィーダの奇行に目を奪われ、家の中は不穏なざわめきで満たされた。
アンダリは、驚いてフィーダを見つめた。
「ばっかみたい。あんたたち全員、普段はなあんにも考えずに楽して生きてる屑野郎どもでしょ。ほんっと、みんなみんな、死んじゃえばいいのに!」
ざわめきの波が、さらに広がった。タットは、なんとかしなければと心では思ったが、体が動かなかった。
フィーダは青紫色のワンピースのすそをつかんで、ぐちゃぐちゃにしながら、美しい顔をぎゅうっと歪めていた。
「あんたは今までずっとずっと、友を持ち、愛されて、いい思いして生きてきたんでしょう!」フィーダは、今度はアンダリに向かって怒鳴った。その唇が震えている。「死ぬまでそうしてるといいわよ。いつまでもいつまでも、頭が空っぽのくだらない奴らに囲まれて、自分を幸せと思い込んで生きればいいじゃない!」
その言葉を最後に、フィーダは扉を勢いよく開け、夜の森へと飛び出した。タットは、「待って、フィーダ!」と、一所懸命追いかけて外に出ていった。
残されたアンダリと、彼女の友と、シャウィーは、開けっ放しの扉をぼう然と見つめていた。
「フィーダ、大丈夫?」
アンダリの家から少し離れた所で、タットはフィーダの肩に手を置いて、心配そうに尋ねた。
フィーダは少し息を整えると、ゆっくりとうなずいた。
「大丈夫よ。」
しかしタットには、その言葉がうそだと分かっていた。タットはフィーダを抱きしめて、その額にキスをした。
フィーダはタットに抱かれて、静かにすすり泣いた。そんな彼女を見ていると、タットの目にも涙が浮かんできた。
恋人は暗い闇の中で、泣きながら、互いを求め合うように強く抱きしめ合った。
〜第8章へ続く〜