こんにちは、あすなろまどかです。

 

 

 今回は、小説「クリムルーレの花」第2章です。

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第2章 家庭(後編)
 
 それから二、三時間が経った頃、玄関の扉をノックする音が、メンセル家に響いた。ラチルドは「はい」と返事をし、扉を開けた。

 タットとシャウィーも、玄関の前に駆けつけた。タットはクリムルーレ親子に挨拶するため、シャウィーは親子がどんな間抜け面をしているか見るためだ。



 扉の向こうを見て、シャウィーは舌打ちをした。


 そこに立っていたのは、決して間抜け面をしている親子などではなく、ブラウンの髪をなでつけた清潔感ある男性と、黄金色の髪を風になびかせている美少女だったからだ。


 とはいえ、少女の美しさにはシャウィーも喜び、心の中でガッツ・ポーズをした。



 タットはといえば、挨拶をすっかり忘れていた。少女のあまりの美しさに、見とれてしまったせいである。


 少女の揺れる金色の髪は、天使のラッパの色をしていた。深い海のような色の瞳は、吸い込まれるような魅力があった。その瞳の中心には美しいともしびがあり、頬は健康的なバラ色に輝いていた。


 タットは、少女に出逢ったまさにこの瞬間に、彼女に恋してしまったのだ。



「ブランケット=クリムルーレ(Blanket Krimroule)です。ケットと呼んでください。どうぞよろしくお願いします。」


 男性が頭を下げたので、タットは我に帰り、あわてて頭を下げた。


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。僕、タット=メンセルです。」


「君のことは、ラチルドさんから色々と聞いているよ、タット。よろしくね。」


 タットは、「えっ」と驚いた。


「ちょっと、ママ。勝手に話さないでよう。」


「大丈夫よ、タット。あなたのことも、シャウィーのことも、いいことしか言ってないから。」


「おい、ばばあ。」シャウィーはたいそう立腹して言った。「俺のことも話したのかよ。」


 ケットは「僕は何も気にしないから大丈夫だよ、シャウィー」と笑った。シャウィーは「俺が気にするんだよ」ときつく言い返した。




 クリムルーレ親子がメンセル家に入り、テーブルに座って少し談笑したところで、タットはずっと聞きたくてうずうずしていたことを、少女に聞いた。 


「あ、あの、君のお名前は?」


「フィーダ。」

 少女は、無愛想に答えた。メンセル家に入ってきたときから、ずっと不機嫌そうに黙り込んでいたのだ。


「フィーダか。すてきな名前だね。よろしくね。」


 タットは愛想良く右手を差し出したが、フィーダはつんとすましてそっぽを向いた。


「こら、フィーダ。」見かねたケットが、娘を叱った。「何か返事しなさい。無視はするなって、いつも言っているだろう。」


「いいんですよ、ケットさん。」タットは言った。「僕がいきなり話しかけたのが悪いんだし。それに、無視されるのなら慣れてるんです。」


 そう言って、からかうような表情でシャウィーを見ると、シャウィーはタットをにらみつけた。


「なんだよ。俺と小娘を一緒にするんじゃねえよ。」


「小娘ですって!?」


 フィーダはひどく立腹し、テーブルにバンと手をついて立ち上がった。


「よく言うわよ! あんた、一体いくつなわけ!?」


「16だけど」


「それなら、私とひとつしか違わないじゃないの。よくも小娘なんて言ったわね!」


「黙れ、ブス!」シャウィーも、かんかんに怒ってテーブルを叩いた。「ひとつ違いだろうと、年下は年下だ。動物園のサルみたいに、キーキーわめくんじゃねえよ。しかも、よそから来た赤の他人のくせに、軽々しく口をきくんじゃねえ!」


「それはあんただって同じじゃないの!」


「もうやめなさい!」最後に怒鳴ったのは、ラチルドだった。「いい? 私たちは、これから仲良くやっていくの。家族になるの。そんなくだらないことで喧嘩するなら、2人とも家から追い出すわよ!」


「ああ、上等だね。」シャウィーは、腕を組んだ。「こんな女と一緒の家に暮らすなら、死んだ方がましだ。」


「私だって!」


 シャウィーとフィーダは互いににらみ合うと、そっぽを向いた。そして、シャウィーは乱暴に席を立ち、家を出ていった。


「フィーダ。」厳しく冷たい声で、ケットは娘の名を呼んだ。「あんまり調子こいてると、パパは怒るぞ。シャウィーに謝ってきなさい。」


「嫌、絶対に嫌! パパのこと、殺すわよ!」


 その途端、家に大きな音が響いた。ケットが、フィーダの頬を思いきりぶったのだ。


「謝ってきなさい。」


 フィーダは綺麗な青い瞳に涙をため、真っ赤な頬を押さえた。フィーダは、ぎりっ、と父親をにらみつけると、席を立って、外に出た。


 と、扉がもう1度開き、フィーダが顔を出した。


「みんな死んじゃえ! ばーか!」


 扉が乱暴に閉まるのと、ケットが「フィーダ!」と怒鳴るのは、同時だった。タットたち3人は顔を見合わせ、先が思いやられるといった調子で、ため息をついた。