こんにちは、あすなろまどかです。
今回は、小説「クリムルーレの花」第2章です。
前回の第1章はコチラ↓
タットとシャウィーも、玄関の前に駆けつけた。タットはクリムルーレ親子に挨拶するため、シャウィーは親子がどんな間抜け面をしているか見るためだ。
扉の向こうを見て、シャウィーは舌打ちをした。
そこに立っていたのは、決して間抜け面をしている親子などではなく、ブラウンの髪をなでつけた清潔感ある男性と、黄金色の髪を風になびかせている美少女だったからだ。
とはいえ、少女の美しさにはシャウィーも喜び、心の中でガッツ・ポーズをした。
タットはといえば、挨拶をすっかり忘れていた。少女のあまりの美しさに、見とれてしまったせいである。
少女の揺れる金色の髪は、天使のラッパの色をしていた。深い海のような色の瞳は、吸い込まれるような魅力があった。その瞳の中心には美しいともしびがあり、頬は健康的なバラ色に輝いていた。
タットは、少女に出逢ったまさにこの瞬間に、彼女に恋してしまったのだ。
「ブランケット=クリムルーレ(Blanket Krimroule)です。ケットと呼んでください。どうぞよろしくお願いします。」
男性が頭を下げたので、タットは我に帰り、あわてて頭を下げた。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いします。僕、タット=メンセルです。」
「君のことは、ラチルドさんから色々と聞いているよ、タット。よろしくね。」
タットは、「えっ」と驚いた。
「ちょっと、ママ。勝手に話さないでよう。」
「大丈夫よ、タット。あなたのことも、シャウィーのことも、いいことしか言ってないから。」
「おい、ばばあ。」シャウィーはたいそう立腹して言った。「俺のことも話したのかよ。」
ケットは「僕は何も気にしないから大丈夫だよ、シャウィー」と笑った。シャウィーは「俺が気にするんだよ」ときつく言い返した。
クリムルーレ親子がメンセル家に入り、テーブルに座って少し談笑したところで、タットはずっと聞きたくてうずうずしていたことを、少女に聞いた。
「あ、あの、君のお名前は?」
「フィーダ。」
少女は、無愛想に答えた。メンセル家に入ってきたときから、ずっと不機嫌そうに黙り込んでいたのだ。
「フィーダか。すてきな名前だね。よろしくね。」
タットは愛想良く右手を差し出したが、フィーダはつんとすましてそっぽを向いた。
「こら、フィーダ。」見かねたケットが、娘を叱った。「何か返事しなさい。無視はするなって、いつも言っているだろう。」
「いいんですよ、ケットさん。」タットは言った。「僕がいきなり話しかけたのが悪いんだし。それに、無視されるのなら慣れてるんです。」
そう言って、からかうような表情でシャウィーを見ると、シャウィーはタットをにらみつけた。
「なんだよ。俺と小娘を一緒にするんじゃねえよ。」
「小娘ですって!?」
フィーダはひどく立腹し、テーブルにバンと手をついて立ち上がった。
「よく言うわよ! あんた、一体いくつなわけ!?」
「16だけど」
「それなら、私とひとつしか違わないじゃないの。よくも小娘なんて言ったわね!」
「黙れ、ブス!」シャウィーも、かんかんに怒ってテーブルを叩いた。「ひとつ違いだろうと、年下は年下だ。動物園のサルみたいに、キーキーわめくんじゃねえよ。しかも、よそから来た赤の他人のくせに、軽々しく口をきくんじゃねえ!」
「それはあんただって同じじゃないの!」
「もうやめなさい!」最後に怒鳴ったのは、ラチルドだった。「いい? 私たちは、これから仲良くやっていくの。家族になるの。そんなくだらないことで喧嘩するなら、2人とも家から追い出すわよ!」
「ああ、上等だね。」シャウィーは、腕を組んだ。「こんな女と一緒の家に暮らすなら、死んだ方がましだ。」
「私だって!」
シャウィーとフィーダは互いににらみ合うと、そっぽを向いた。そして、シャウィーは乱暴に席を立ち、家を出ていった。
「フィーダ。」厳しく冷たい声で、ケットは娘の名を呼んだ。「あんまり調子こいてると、パパは怒るぞ。シャウィーに謝ってきなさい。」
「嫌、絶対に嫌! パパのこと、殺すわよ!」
その途端、家に大きな音が響いた。ケットが、フィーダの頬を思いきりぶったのだ。
「謝ってきなさい。」
フィーダは綺麗な青い瞳に涙をため、真っ赤な頬を押さえた。フィーダは、ぎりっ、と父親をにらみつけると、席を立って、外に出た。
と、扉がもう1度開き、フィーダが顔を出した。
「みんな死んじゃえ! ばーか!」
扉が乱暴に閉まるのと、ケットが「フィーダ!」と怒鳴るのは、同時だった。タットたち3人は顔を見合わせ、先が思いやられるといった調子で、ため息をついた。