こんにちは、あすなろまどかです。

 

 

 今回は、小説「クリムルーレの花」第1章です。

 前回の「〜プロローグ〜」はコチラ↓

 
第1章 家庭(前編)
 
 アメリカにあるサリースペンス(Sallyspens)というのどかな町の中に、赤い屋根の小さな家がある。
 

 「町」と書いたが、それよりは村のようなもので、この赤い屋根の家の他に、あと十数軒しか家がない。しかしその中の一軒が、今日、空き家になろうとしていた。

 



「ねえ、ママ。屋根裏部屋の荷物、僕の部屋に持っていってもいい?」

 その赤い屋根の小さな家で、十七歳の青年が、母親にそう尋ねていた。


「ええ、いいわよ。だけど、どうして?」


「荷物があったら、クリムルーレさんの邪魔になるでしょ。僕の部屋は狭くなっていいから、荷物をどかすよ。」


 そう答える青年に、母親は感動して、目を潤ませた。


「ああ、お前はほんとうにいい子だねえ。お前がそうしてもいいなら、ぜひそうしてほしいよ。」


「じゃあ、僕の部屋のレイアウトを変えるよ。」

 青年は、きびきびと部屋へ消えていった。

 



 青年の名はタット=メンセル(Tat Mencel)。母親の名はラチルド=メンセル(Lachild Mencel)だ。


 今日のメンセル家は、朝から大忙しである。クリムルーレ家の親子が、メンセル家に引っ越してくるのだ。


 八年前、メンセル家は父を肺炎で亡くした。そして、クリムルーレ家も、七年前に母がいなくなった。父と離婚し、母が出ていったのだ。


 メンセル家の母であるラチルドと、クリムルーレ家の父であるブランケットは、五年前に出逢い、交際を始めた。そして今日、クリムルーレ家はメンセル家とひとつになり、クリムルーレの家は空き家となる(ちなみに、式を挙げるのは数日後となっている。)。あとほんの数時間でやってくるので、タットとラチルドはあわただしく動いているのだ。


 タットは屋根裏部屋の荷物を自分の部屋に移し終えると、弟の部屋の扉をノックした。


「何だよ。」

 部屋の中から、不機嫌そうな声が響いた。


「僕だよ、シャウィー。入るよ。」


 タットが部屋に入ると、弟のシャウィーはベッドに寝転がって漫画を読んでいた。


「ちょっと、シャウィー。朝から遊んだり、だらだらしてばかりじゃないか。ちょっとは手伝ってよ。」


「うるせえ、じじい。やりたい奴がやりゃあいいだろ。俺はめんどくさいんだよ。」 


「じじいとは何だ、じじいとは。お前より、ひとつ年が上なだけだろう。」


 タットはシャウィーを怒鳴りつけたが、シャウィーは無視して漫画を読み続けた。あとは、タットが何度 名を呼んでも返事がなかったので、タットは「もう」とため息をついて、部屋を出ていった。