第6章 ひとりぼっち
 
 次の日、いつものように学校へ行くと、何やら教室がさわがしかった。 

 

 もしかして、またジムが問題を起こしたのかな。あきれながらも、なぜか愛おしい気持ちでそんなことを考えていると、後ろから、


「あーっ。不良のガールフレンドだ」


 そんな声と、複数のクスクス笑いが聞こえてきた。


 わたしは振り返ると、


「ガールフレンドなんかじゃないわ」


と言った。でも、そいつらは相変わらず、わたしを見てクスクス笑ってるの。バカバカしすぎてハラも立たなかったから、そいつらのことはムシしたけどね。


 でも、次の言葉はムシできなかった。そいつらのうちの一人が、わたしに近付いてきてこう言ったの。


「残念だったな、彼女さん。ジムはもういないぜ」


 それを聞いたとたん、わたしはとび上がってそいつの胸ぐらをつかんだ。


「どういうこと?いないってどういうことなのよ!」


「な、何だよ。彼女のクセに知らねえのかよ。アイツ、刑務所に入れられたんだぜ」


 わたしは、かたまってしまった。


「ウソ…」


 若干引いているそいつの胸ぐらから手を放し、思いっきり突きとばした。そして、わたしは教室をとび出して、ろう下を走り回った。


 すると、わたしの背後から声が聞こえた。

「どうした?モーリン」


 それは、スミス先生だったの。ジムをかばおうとしたら月と一緒くたにされてしまった、可哀想なハゲのスミス先生よ。


「先生、ジムはどこですか?」

「ああ、彼なら刑務所に入れられたよ。まあ、当然だよね。マシューの骨をくだいたのだから」


 本当なんだ…。わたしは呆然としてしまった。


「いつか、会えますか?」


「いや、会えないんじゃないか。 

 マシューの件だけでなく、今まで働いてきた悪事が多すぎるんだよ。例えば、そう…暴行、万引き、わいせつ行為、それに…教師を遠回しにハゲ呼ばわりしたり」


「あー…」

 深いなあ、そのうらみ…。


「とにかく、君のボーイフレンドは最低品だったな、モーリン」


 冷ややかに言ってわたしをにらむと、彼は行ってしまった。いつもの優しいスミス先生とは別人のようで、背中がゾクリと震えた。


 わたしは、どうしようもない気持ちたちを、何とか全て心に押し込めた。

 



 ジムは、本当にいなくなってしまった。まるで嵐にでも呑み込まれたかのように、突然いなくなってしまった。でも、クラスで悲しんでいるのはわたしだけだった。みんな、あの不良がいなくなってくれてよかった、って思ってるのね。教師もそんな感じだった。


 わたしの中で渦巻く喪失感は、ものすごいものだった。マシューを失ったときより、もっとずっと悲しいの。


 ジムの席は、次の席替えのときには、どこかへやってしまうんだって。どこへ行くかは知らないし、どこへ行ってもいいはずなんだけど、なぜかとてつもなく虚しかった。


 わたしはすっかり大人しくなって、以前のように河川敷に出かける気は失せてしまった。きっとそういう気持ちは、ジムと一緒にどこかへ行ってしまったのね。 


 まあ、ジムがいなくても全然平気よ。だって、彼が現れる前までも、わたしは普通に生きていたんですもの…。


 ところがどうしたことか、わたしは泣いてしまった。ジムが去ってから数日経ったある日に、突然。いつものように学校へ行って、誰も座っていないジムの席を見ると、どうにもやるせなくなっちゃったの。


 おかしいわよね。マシューにフラれたときは泣かなかった、強いはずのわたしが…。


 〜完〜