やっとジムに追いついたところで、彼は足を止めた。いつの間にか、もう河川敷に着いていた。
そのままそこに腰を下ろしたジムを、わたしはだまってただ見下ろしていた。どうしてあんなことしたの?とか、よくもマシューにひどいことしたわね!とか、言ってもいいはずだったわ。それなのに、わたしは何も言わなかった。何も言えなかったの。
永遠とも思われた沈黙に、ジムが鋭く低い声を突き刺した。
「どうしてあんなことしたと思う?」
相変わらず何も言えずにだまっているわたしに、ジムは続けた。
「俺、ひどいことしただろ?」
わたしが聞きたかったことを次々と、エスパーのように彼は吐き出してゆく。
「マシュー、痛そうだったな。可哀想に。俺みてえなヤツに、あんな優等生が負けちまってよ…」
水をせき止めていたダムが壊れたかのように、ジムは一人で淡々としゃべり続ける。
その後、また少しの沈黙。かと思うと、ジムはわたしを責めるように、再び言葉を押しつけた。
「なあモーリン、お前、どっちを応援していた?お前は俺とマシュー、どっちの味方なんだ?
モーリン、お前はなぜ、マシューを助けなかった?」
その言葉を言い終えるか終えないかのうちに、ジムは青い瞳をこちらに向けた。思わずその水平線に吸い込まれてしまいそうなくらい、きれいなサファイア色の瞳だった。
サファイアに向かって、わたしはようやく言葉を絞り出す。
「助けたよ」
水平線に向かって、わたしは静かに言葉をつむぎ始める。
「アンタのこと、引っ張ったでしょ?わたしはマシューを助けようとしたの。それなのに、アンタがキスしたから、わたしはアンタをマシューからどかせなかった…」
そのうちに、わたしの胸はだんだんと熱くなってきた。
「わたし、助けようとしてたでしょ?そんなふうに見えなかったの?どうしてわたしを責めるの?わたし、何か悪いことした?だって、マシューをなぐったのはアンタでしょ…マシューを傷付けたのはアンタでしょ!」
わたしはジムが心の奥底から憎かった。
「ねえ、どうしてあんなことしたの!?あんなひどいことを!」
また、涙がとめどなくあふれてきて止まらなくなった。ジムはそんなわたしをよそに、だまりこくって遠くを見ている。
「何とか言いなさいよ、このキチガイ男!!」
その言葉を最後に、わたしは自分を押さえることができなくなった。ジムを押し倒し、その上に馬乗りになって、ムチャクチャになぐりつけた。顔をボコボコにして、鼻血を出させてやった。
きわめつけに、彼の水平線もサファイアも粉々にしてやろうと、こぶしをつくって目になぐりかかろうとした。
でも、それはできなかった。わたしをまっすぐ見つめるその青い瞳が、あんまりにもきれいで、あんまりにも澄んでいて、そして誠実そうだったの。中身はとんでもない乱暴者だというのに。
そして、彼は泣き出しそうでもあった。
「…落ち着けって。冷静になれよ」
彼は絞り出すように、とても小さな声でそう言った。その言葉はまるで湧き水のように、自然にわたしの心に広がった。
わたしが思わずジムを見つめると、彼は優しく微笑んだ。この人が不良で、万引き常習犯で、すぐ人に手を出すあらくれ者だということを、まるで否定するようにね。
「さっきのお前は、俺と同じだぜ。すぐカッとなって、相手をなぐっちゃうんだ…」
ジムはステキな微笑みを崩さずに、泣きそうな目をそのままに、つぶやいた。
「俺なんかになるなよ」
わたしは、また何にも返せなくなってしまった。ジムもそれ以上、何も言わなかった。
倒れている血だらけのジムの上に馬乗りになったまま、わたしは静かに、無音の時を彼とともにつむいでいた。