こんにちは、あすなろまどかです。
今回は、小説「不良青年ジム」第2章です。
前回の第1章はコチラ↓
ジムはわたしを気に入っていて、何度も話しかけられたり、授業中にむりやりキスされたり、みんなの前でパンツを下ろされたりした。(そのときは、三発ブンなぐってやった。)
「おい、モーリン、俺と付き合えよ!お前が俺を好きにならなけりゃ、俺は今すぐ死んでやるぞ!」
それが彼の口ぐせだった。わたしはよく、
「勝手に死ね、ヘンタイ!」
と返したものよ。
わたしは彼が嫌いだった。だって、そうでしょう?パンツをむりやり下げてくる男なんかと恋人になったら、わたし、一生スカートなんか履けないじゃない。
だけどジムはしつこかった。
「お前が俺を好きになるまで、俺はお前のパンティを下ろし続けるぞ」
そんなキチガイめいたことを言うのよ。
わたしはついに折れて、キチガイ男の唇にキスしてやって、こう言った。
「ハイ、これで好きになったわよ。一生アンタが大好きよ!」
すると、ジムはうれしそうに笑って、「ついてこい」と言った。そして、彼は学校の外に出ていった。わたしは、追いかける他なかった。自分で「一生アンタが大好きよ」って言ったんだもの。
ろう下ですれ違う人みんなが、学校を出ていくわたしたちを、あんぐりと口を開けて眺めていた。ムリもないわ。授業は、あと三時間残っているんですもの。
ジムがわたしを連れてきた場所は、近くの河川敷だった。そこは、よくわたしが一人で遊びに来る場所。ジムが腰を下ろしたからわたしもそうすると、
「お前、ほんとに俺にホレたか?」
と彼は聞いてきた。
「ええ、ホレたわよ。もうメロメロで、目からハートがこぼれ落ちちゃいそうよ!アンタって、とってもハンサムなのね!」
わたしはそんなウソ八百を並べたてた。そう、当然、わたしはこんなキチガイ男なんかにホレてないの。それに、まだマシューのことが好きなんだから。
上手くごまかせたかな、と思ったけど、甘かったわね。
「お前、ウソついてるな」
ジムはそう言って、すうっと目を細めた。青い水平線が、見えなくなってしまうほどに。
「ウソ?どうしてそんなこと言うの?」
「目を見りゃ分かるよ」
ジムは、わたしの瞳を見つめた。
わたしは何だか彼の瞳を見られなくなって、思わず目をそらした。すると、つ、つーっと、瞳から涙が流れ出た。
ジムは少し驚いたような顔をしたけど、何も言わなかった。その代わり、わたしをがしっと抱きしめたの。
うれしくはなかったけど、さっきよりは幾分落ち着くことができた。
「ありがとう」
一応なぐさめてもらったので、わたしはお礼を述べた。ただし、ものすごくぶっきらぼうにね。
ジムは相変わらず、何も言わなかった。
その日から、わたしはジムを目で追うようになった。でも、好きになったとか、気になってるとか、そんなんじゃない。
ただね、わたしは彼に抱きしめられて、彼という人間が分からなくなったの。人をからかったり、いじめたりすることしかできないヤツだと思ってたけど、どうもそうでもないみたいだから。ジムの行動を見たいの。それだけよ。
ジムは、ムチャクチャな男だった。授業中に抜け出して、教師にしかられては、その教師に歯向かってるのよ。
一番驚いたのは、学校一怖いエリソン先生にしかられたときだった。ジムはハゲてるエリソン先生に向かって、こう言ったのよ。
「いやあ、先生、今日はピカピカのお日さまがやけに地球に近いですね!今まで見た太陽の中で一番輝いてますよ!」
クラスのみんなが吹き出しそうになったのをグッとこらえたとき、もう一人のハゲてる教師、スミス先生が、ジムとエリソン先生の間に入ってきた。優しいスミス先生は、しかられてるジムを可哀想に思って、仲裁に入ってくれたのよね。
でもね、ジムっていうのは、恩を仇で返すことにかけては天才的なのよ。ジムは二人のハゲを見るなり、大声でこう言ったの。
「あれ?今日は皆既日食だったかなあ?」
これにはみんな、吹き出さずにはいられなかった。エリソン先生とスミス先生を除いてね。
それからわたしは、ほんのちょっとジムのことが嫌いじゃなくなった。皆既日食発言が面白かったのはもちろんなんだけど、教師にしかられてもジョークが返せるという、勇気と余裕に憧れたの。わたしは前まで不良もジムも嫌いだったけど、この件のおかげで少し好きになれたのよ。
〜第3章に続く〜