こんにちは、あすなろまどかです。



 前回予告していた通り、短編小説「不良青年ジム」の第1章を掲載します。


 前回の記事はコチラ↓

 
第1章 涙

 わたし、モーリン・マッキノン。

 実はわたし、今ひどく落ち込んでいるの。少し、話を聞いてくれる?


 フラれたのよ。半年間付き合った彼氏にね。マシューっていう、すごくハンサムな優等生だったのに。


 別れたくなった理由は言われなかったけど、まあ正直、傷付いたわね。ほぼ全ての人間が嫌いなわたしが、唯一と言っていいほど心から愛した男の子だったから。


 それでも、わたしは泣かなかった。やせがまんなんかじゃない。涙が出なかったの。


 人は、心が落ち着かないほど悲しいときは、涙すら出ないって言う。でも違うの、そういうことじゃないの。心は落ち着いてたのよ。自分でも信じられないくらい冷静だった。すごく悲しかったのに。


 それから何日経っても、何ヶ月経っても、ついに涙は一滴も出てこなかった。おかしいわよね。今もこんなに愛しているはずで、こんなに悲しいはずなのに…。


 この話で思い出したんだけど、「人は大切なものを失ってからそれに気付く」って言うじゃない?誰が言い出したかは知らないけど。わたしはこの言葉、どうも間違ってるような気がするのよねえ。


 本当に失ってから気付く人も、まあいるにはいるんだろうけどさ。大体の人は違うと思うわよ。自分のものじゃなくなって、ガッカリしてるだけだわ。もう一度手に入ったところで、安心してまたお粗末に扱うでしょうよ。所詮、人間なんて独占欲のかたまりなんだから。(わたしも含めてね。)


 別にわたしは、失ってから悲しんだり、後悔したりすることを否定してるわけじゃない。(わたしもそうなんだから。)


 ただ、自分が何をしてるかくらいは分かっておきなさいよ、って思うのよね。宝物を落として自分のためだけに悲しんでることに、いつまでも気付かない人が多すぎるの。


 愛する人のために悲しんでると思い込んで、汚い涙を流してる。そんなにバカバカしい話ってないわよ。

 


 〜第2章に続く〜