こんにちは、あすなろまどかです。
久しぶり?ですかね。「ジキルハイド」第7話、書きます。
(ちなみに、この小説は1話完結型です。そのため、前回で日本は消滅しましたが、今回の舞台は日本です)
前回の第6話はコチラ↓
第7話 ホテル
「お前は、ジキルのことが好きなのか?」
ジョウの問いに、リコは笑った。バカにするような笑い方だったので、ジョウはそれがカンに障り、ムスッと黙り込んだ。
「バカなこと、言わないで」
笑いがやむと、リコはゆっくりと言った。ジョウはリコの横顔に目をやったが、何を考えているのやら、彼にはサッパリ分からなかった。
「じゃあ、嫌いってことか」
黙っているのも何だか落ち着かないので、ジョウは言ってみた。リコは、黒真珠のような瞳でジョウを見た。
「発想が単純すぎるんじゃない」
ジョウはリコの瞳をじっと見た。リコもジョウをじっと見つめ返した。ジョウは落ち着かなかったが、今度は何も言わなかった。
リコが金を払い、2人は店を出た。夜の匂いと、ガチャガチャした色彩が2人を包んだ。新宿の夜はいつもこうである。
「悪いな。おごってもらって」
「いいのよ」
2人の間に、また沈黙が流れた。しかし、今度の沈黙の中には、都会特有のガヤガヤした話し声が織り込まれていた。その多くが、若者の声である。
「ねえ。もう帰る?」
「まだ決めてねえけど…なんでそんなことを聞く?」
「別に…」
それから短い沈黙を挟み、リコは再び口を開いた。
「今夜は、一緒にいましょうよ」
リコがシャワーを浴びて帰ってくると、先にシャワーを浴びたジョウが、ベッドの上に転がっていた。リコはベッドの端に座り、大きな窓から夜景を眺めた。
「今夜のお前は、どこか変だぜ」
ジョウが沈黙を破った。
「それはアナタも同じこと」
リコは言って、バスローブをぱさりと脱いだ。豊満なボディがあらわになる。
リコはゆっくりと移動し、ジョウの上に馬乗りになった。
「アナタも男なのね」
リコはジョウにしがみつくようにして、言った。
ジョウは、答えなかった。代わりに、リコに質問をした。
「ジキルの何が気に入らなかったんだ?」
リコは答えずに、ジョウを弄び始めた。
「リコ」
ジョウがイライラと名を呼ぶと、リコは笑った。
「分かったわよ、ジョウ君」リコは手を止めると、答えた。「気に入らないところなんて、ひとつよ。彼、ジキルじゃないんだもの。ジキル・ハイドなんだもの」
「オイ、それだけか?」
「痛いのよ」スットンキョウな声で尋ねたジョウに、リコはきつい調子で言った。「あんなに激しいと壊れちゃう」
「そうか」
ジョウには言いたいことが色々あったが、全てを呑み込んでうなずいた。が、我慢できずに、そのうちのひとつをリコにぶつけた。
「だがな、それで俺のところへ来るっていうのは、おかしな選択だよ。さっきお前が言った通り、俺も男だ。興奮すればこうなるし、その気になればウンと激しくできるんだ」
「分かってる」
リコはすぐに答えて、さっきよりもきつく、ジョウを抱いた。予想外の答えに、ジョウは少しばかり戸惑った。
「分かんねえなあ、女ってヤツは」ジョウは、心の底から呆れて言った。
「あたしも。…分からないわ」
そしてリコは、静かにジョウのシャツのボタンを外した。
「ゴメンね」
服を着たリコが開口一番言ったセリフが、それだった。ジョウは少し驚いたように、「いや」と短く言った。
そして、こう付け加えた。
「俺の方こそ」
リコは、ジョウを振り返った。彼女が何を考えているのかが分からず、ジョウは汗ばんだ額の下で、静かに彼女を見た。
リコは一瞬間、ジョウが腰掛けている白いベッドシーツに視線を落とすと、すぐに微笑んで彼に視線を戻した。
「さよなら」
リコは荷物を持って、部屋の扉へと歩いていった。
「…いいえ、」そこでリコはまた振り返り、ゆっくりと言った。「また会いましょ」
「どこでだ?」
思わずジョウが尋ねると、リコはクスッと笑った。
「どこでもいいわよ」
リコはそう言うと、扉を押し開けた。ジョウの目に、廊下が映った。
「そうか」ジョウもゆっくり答えた。
相変わらず、何を考えているのか分からない瞳を、リコはジョウに向けた。そして、リコは少ない荷物とともにホテルを出ていった。
ジョウはすぐにはホテルを出ず、しばらくベッドシーツの上で、もくもくとタバコをふかしていた。