こんにちは、あすなろまどかです。
現在、ロシアがウクライナ侵攻をしていますよね。地球は危機に陥っています。
今の危機的な世界の状況を見つめ、これから世の中はこうなっていくのではないか…と予想することがあります。
「世界はこれからこうなる」という私の予想を、(フィクションを交えて)小説として書こうと思います。
というわけで、連載中の小説「ジキルハイド」の第4話〜第6話は、私の予想する世界が舞台となります。今回は、最終話の第6話です。
今回も、少し長くなるかもしれません。
前回の第5話はコチラ↓
ジョウは車を降りると、そっと刑務所に忍び込んだ。そして、ジキルが入れられている監房を見つけた。
「よう、ジョウ」
ジョウの姿を見ると、ジキルはゆっくりと挨拶した。
「ジキル。えらい目に遭ったモンだな。さあ、早いとこ脱獄しよう」
「もうできてるぜ」
ジキルの言葉に、ジョウは顔をしかめた。持っていた万能カギ(どんな扉も開けることができるカギ)で、ジキルは既に監房のカギを開けていた。
「そんなモンを持ってるなら、なぜもっと早く出てこなかったんだい」
監房から出てきたジキルに、ジョウは呆れて尋ねた。
「出る気にならなかったのさ。プーチンと会話をしてイライラしたら、何だかもう疲れきっちゃてね。何をする気にもなれなかった」
ジョウは、ジキルの目をよく見た。そこでジョウは初めて、ジキルがうつろな目をしていることに気付いた。
「オイ、大丈夫か?お前らしくない」
「ウン。大丈夫、大丈夫」
そう答えるジキルだが、やはりぼうっとしてどこかを見ている。心配になったジョウは、ジキルの肩を抱くようにして、足早に刑務所から逃げ出した。
車に戻ると、マリヤは目を覚ましていた。
「マリヤには、これまでの状況を説明したわ」とリコ。
「ありがとう。ところで、ジキルの元気がねえ。プーチンと会話をして、疲れたとか何とか言ってな」
「まあ、ジキルらしくないわね」
「そうなんだよ。プーチンのヤツ、ありゃ相当おっかない男だぜ」
ジョウは助手席にジキルを乗せ、運転席に乗り込んだ。そして刑務所から離れるため、再びウクライナへと向かった。
「さあ、ジキル、しゃんとしてくれ」ジョウは、助手席でぼうっとしているジキルを見た。「これから、どうするか考えなくちゃいけねえんだ」
「どうもこうもない。考える必要なんかねえよ」ジキルは、面倒くさそうに言った。いつものジキルとは明らかに違い、放心しながらも、何かを悟っていた。「プーチンは勝った。俺たちの負けだ。アイツは核兵器を出してくるだろう。地球は終わった。世界は滅びるんだ」
「オイ、何言ってんだよ。こんなくだらんことに、勝ったも負けたもねえよ。まだどうなるか、分かんねえだろうが」
「…昔プーチンと会ったとき、アイツはまだKGBに所属していた」ジキルが突然、過去を語りだした。「そのとき、俺はたまたまロシアに旅行に来ていた。
そこで俺は、何か面白いことをしようと思った。そして、スパイ組織を潰してやろうと考えついたんだ。俺は、KGBに目をつけた。
ヤツらを殺そうと息を詰めて見守っていると、1人がそれに気付き、俺を締めあげた。そいつがプーチンだったのさ。
俺は驚いたね。誰も、俺に勝てるはずないと思っていたのさ。俺は心から、アイツを尊敬したよ。そして握手を交わして、今度は正々堂々と勝負しよう、と誓い合ったのさ」
ジョウもリコもマリヤも、ジキルの話をじっと聞き込んでいた。
「それが、数年後には大統領になって、ウクライナだの日本だのを攻撃する男になっちまったんだからな。そんなデカイことをしている男の眼中に、1人の男なんてないだろうよ。
…正直なところ、ウクライナと日本への侵攻をやめさせたら、もう1度俺を見てくれると思ってたんだ。また素晴らしい勝負ができると、そう思ったのさ。
でもアイツはきっと、あの約束を忘れているさ。俺のことなんて、きっともう、どうでもいいんだ」
ジョウは、ルームミラーに映るジキルを見た。別れた女を惜しむような目をしたジキルに、ジョウは少々困惑した。
「俺は、お前がプーチンを嫌っているのだとばかり思っていたよ」
ジョウは言葉を選びながら、ゆっくりと言った。
「そうさ。大嫌いさ」
そう答えたジキルの目に、何かが光ったような気が、ジョウはした。
ジョウは再び口を開いたが、何も言わず運転に集中した。リコとマリヤも黙っていた。どこへ向かうかも分からず、ジョウは車を走らせ続けた。
そのときにわかに空がかき曇り、今にも泣き出しそうな灰色になった。少しすると大きな雷がひとつ、走る車のすぐそばに落ちた。
ふり始める雨の中で、突如、後部座席からカチッと音がし、男の声が車に流れだした。リコの持っていたラジオが雷の影響で起動し、ニュース番組が流れ始めたのだ。
「臨時ニュースです。プーチン大統領がロシア兵を日本に送ったのち、北朝鮮や韓国までもが、日本に攻めてきています」
4人は、驚いて目を丸くした。
「北朝鮮は、ミサイルを所持しています。繰り返します…」
日本はロシアや朝鮮に攻め入られ、大混乱に陥っていた。日本人は当然のように死に、ロシアと朝鮮と韓国が、日本の土地で暴れ回っていた。
日本がロシアに攻められていると知った朝鮮や韓国が、ここぞとばかりに、大嫌いな日本へ攻撃を仕掛けてきたのだ。弱っている日本は、さらに朝鮮に攻められて、反撃などできるはずもなかった。
日本人の三分の二ほどは、外国に攻撃され、あっけなく死んでいった。生き残った日本人たちは全員、タイやトルコなどの親日国に逃亡した。ロシアや朝鮮から離れているという利点も、日本人が逃亡先の国を選ぶ理由となった。
「こりゃ、いよいよヤバイ。冗談じゃなく、日本滅亡の危機だ」
ジョウの言葉に、ジキルは微笑んだ。
「ほんとだ…こりゃヤバイ…ハハ…」
なぜかだんだん面白くなってきたようで、ジキルの笑い声は、だんだん大きくなっていった。
いつの間にやらジキルの元気は戻り、狭い車内に彼の高笑いが響いた。他の3人は、キチガイでも見るかのように、ジキルを見つめた。
「悪い、ジキル。このあたりに精神病院はなさそうだ」
ジョウはワイパーを動かしながら、冗談とも本気とも言えない声で言った。
「セーシンビョーイン?なんで俺が、そんな所に行く必要あるんだい」
そう尋ねるジキルの声には、すっかりいつものハリと若さが戻っていた。
「それより、他に行きたい所があるんだ。日本に行こうぜ」
これには、ジキル以外の全員が大声を上げた。
「ジキル。アンタ、正気?」
リコの問いかけに、ジキルは若さで笑ってみせた。
「日本に行けば、確実に死ねるぜ。そうなりゃもう、苦しみなんか味わわなくていいんだ」
ジキルの目はキラキラと輝いていて、まるで夢見る少女である。3人は、背筋にゾワリと冷たいものが走るのを感じた。
ジョウは、ジキルの死だけはどうしても避けたかった。本気でジキルを信頼している男が、彼の死に傷付かないわけがない。そこで、ジョウは思わず、こう言ってしまった。
「なあ、ジキル。日本で死ぬくらいなら、プーチンに復讐しようぜ。アイツは、お前を忘れちまったんだろう?」
「復讐か…そりゃ、いいな。俺を忘れた報いだ。アイツを殺してやる。そして、アイツを負かしてやるんだ」
ジキル・ハイドという男は、尊敬する相手を大切にするか、殺してしまうかのどちらかしか出来ない男なのだ。ジョウやリコはひどく焦ったが、ジキルに死んでもらうよりその方が遥かに良いので、何も言わなかった。
ジキルたちがプーチンのいるロシアへと向かっているとき、日本は戦場になっていた。ロシア兵と朝鮮兵の戦場だ。
朝鮮がミサイル攻撃により、誤って北方領土のうちのひとつ、択捉島を破壊してしまったのだ。それに大激怒したロシアが、朝鮮との血なまぐさい争いを繰り広げていた。
今や、日本に日本人はいない。極めて残酷でカオスな物語が、日本という国では始まっていたのだ。
さて、何時間もかけて、ジキルたちはロシアへたどり着いた。モスクワに入ると車を停め、4人で話し合った。
「これから、プーチンのいる大統領府に向かう」とジョウ。「誰か1人が中に入り、プーチンと話をする。その間に、プーチンを射殺するんだ」
「中に入る役目は、俺にやらせてくれ」手を挙げたジキルの目は、悲しげだった。「最後にアイツと話すのは、俺がいい」
「もちろんさ」ジョウは優しくうなずいてみせた。「俺とリコで、アイツを狙撃しよう」
「私にできることは、何かありませんか」マリヤが言った。「私は、あなたたちの役に立てていません」
ジキルとジョウとリコは、顔を見合わせた。
「俺たちがもしケガをしたら、治療してくれ」
「そんなことですか?」ジョウの言葉に、マリヤは思わず、不満げな声を漏らした。「もっと、ジョウさんたちの役に立つことをしたいです」
「何言ってるのよ。看護師だって、充分役に立つじゃないの」リコはきつく言った。「表に出て銃を乱射することだけが、人の役に立つことじゃないのよ。ナイチンゲールを知らないの?」
「…はい。分かりました。治療の役目を努めます」
マリヤはリコの話をすぐに理解して、うなずいた。これほど素直で賢い子供は珍しかった。
ジキルとジョウとリコは、うなずき合った。次の瞬間、3人は外に飛び出した。ジョウとリコは、マリヤが乗っている車を守るようにして、銃を構えた。
ジキルは、ひとり大統領府の中へと入っていった。
ジキルが大統領府に近付いた途端、立っていた護衛がジキルに「入るな!」と怒鳴った。ジキルと護衛は、しばらくの間激しい口論を繰り広げた。
「オイ、うるさいぞ」そのうちプーチンが、大統領府から出てきた。「侵入者なら追い出しておけ」
と、護衛が何かを答える前に、プーチンは外に立っている男が誰か気付いた。プーチンはニヤリと笑うと、護衛に「入れろ」と命じた。
「ジキル」驚いて黙り込んでしまった護衛から、ジキルの方に目を移して、プーチンは言った。「俺と話がしたいんだろう」
「ああ」
「入れ」プーチンはジキルに言うと、今度は護衛に声をかけた。「なに、大丈夫だ。昔の友人さ」
護衛はキョトンとして、中に入っていくジキルとプーチンを見つめた。
「何をしに来た」
部屋に入るなり、プーチンは冷たく言い放った。
「少し、お前と話がしたくてね」
「刑務所で、伝え忘れたことでもあったか」
「ああ」ジキルは一呼吸置いて、その悲しげな瞳でプーチンを見つめた。「俺はな、お前のことが、結構好きだったのさ」
そしてジキルは、左手を挙げた。
プーチンがその行動を不審に思った次の瞬間、部屋の窓ガラスが爆音を立てて粉々に割れた。と思えば、プーチンは床に倒れていた。彼が押さえている心臓から、血がどくどくと流れ出ていた。
プーチンは、目を見開いて、何も言わずにジキルを見つめた。ジキルの方でも、何も言わなかった。
ジキルが左手を挙げて合図をよこしたとき、リコが窓ガラスを撃った。そして、ジョウが拳銃をぶっ放したのだ。冷酷かつ偉大なプーチン大統領の心臓を、しっかりと狙って。
「ジキル・ハイド…」プーチンは、かすれた声で言った。「お前の勝ちだな」
「いや、お前の勝ちだよ」
「なぜだ…?」
「だって…………」
ジキルが何かを告白すると、プーチンは満足げに笑った。声を上手く出せずに、ヒューヒューという音がのどから漏れた。ジキルも、寂しげに笑う他なかった。
プーチン大統領の体が冷たくなり、永久に動かなくなったときには、ジキルたち4人を乗せた車は、大統領府を後にしていた。護衛たちがプーチンの遺体を見つけた頃には、もう後の祭りであった。暗殺者たちは跡形もなく消えてしまった。
その後、ロシアの副大統領メドヴェージェフが、大統領に就任した。彼はプーチンのように思いきったことは出来ないので、ウクライナと日本への侵攻を中止した。
こうして、世界はめちゃくちゃに荒み、日本というひとつの国は消滅したのである。
これから世界がどうなるか、誰も知らない。ただし、地球は間違いなく、確実に破滅への道をたどっている。
4人は沈み込みながら、行くアテもなく車を走らせた。
~「戦争」完~
…この物語が現実になる時は、案外そう遠くないのかもしれない…
以上で、小説「ジキルハイド」第4話〜第6話は完結です。
ヒロインのマリヤの存在感が薄かったので、反省しています(ラストは全く活躍しないどころか、あまり登場もしなかったので…)。
キャラの扱いを、もっと勉強します。今度また小説を書くときは、余計なキャラクターを増やしすぎないように気を付けます。
それでは、ありがとうございました!