こんにちは、あすなろまどかです。

 

 現在、ロシアがウクライナ侵攻をしていますよね。地球は危機に陥っています。

 

 

 今の危機的な世界の状況を見つめ、これから世の中はこうなっていくのではないか…と予想することがあります

 

 

 「世界はこれからこうなる」という私の予想を、(フィクションを交えて)小説として書こうと思います。

 

 というわけで、連載中の小説「ジキルハイド」の第4話〜第6話は、私の予想する世界が舞台となります。今回は第5話です。

 

 今回、少し長くなるかもしれません。

 

 

 

 前回の第4話はコチラ↓

 
第5話  戦争 その2

「よう、しばらくぶりだな。プーチン大統領」

「なぜロシアにやってきたのかな?」ジキルの挨拶を無視して、さっさとプーチンは尋ねた。「何が目的だね」


 ジキルはプーチンを見た。数秒、無言の時間があった。


「ウクライナ侵攻をやめさせることだ」


 ジキルの言葉のあと、再び無言の時間ができた。ピンマイクの先のジョウとマリヤは、息を詰めて、その空気を聞きとった。


「悪のジキル・ハイドが、ついに平和主義者になったか。面白い話だ」プーチンは、声に薄い笑いを浮かべて言った。「だが、どうやってこの私を止めると言うんだね。私はいかなる犠牲者を出してでも、米国の東方拡大を食い止めてみせるぞ。

 私には核兵器がある。国のひとつやふたつ潰すなど、たやすいことだ」


 プーチンの黒い微笑みに、ジキルは思わずツバを呑み込んだ。


「それに、お前はKGBごときに、刑務所送りにされるような野郎じゃないか」 


「やはり、あのホテルのフロントマンは、ただの男じゃなかったんだな」ジキルはつぶやいた。「KGBだとは思わなかったよ」


「お前がこの国に来てくれたことに、私はいち早く気付いたのさ。それでKGBに指示を出し、フロントマンに化けさせた」


「お前はもうKGBじゃないはずだぜ。なぜ指図できるんだ?」


「1度は所属していた組織だぞ。私には何とでもできるさ」

 ※実際、プーチンは大統領に就任する前、KGBというスパイ組織に入っていました。


「汚ねえな」


 ジキルはプーチンを睨みつけた。が、深呼吸をして、ハイド氏に変貌しそうなところを何とか抑えた。


「なあ、プーチン。どうしても、ウクライナ侵攻をやめるわけにはいかねえのか?苦しんでる国民がゴマンといるんだぜ。そのうちの1人は、俺の知り合いでね。家族は全員殺されちまって、キエフにいるいとことも離れ離れなんだ」


「それがどうした」


「その子、女の子だぜ。か弱い子供だぜ。それが苦しんでて、お前は何とも思わねえのかよ?」


「ああ」


 ジキルはため息をついた。ピンマイクの先で、ジョウとマリヤも、ガッカリして肩を落とした。


「お前こそ、残忍な男じゃないか」プーチンは笑った。「嫌なヤツがいたらすぐに殺すという極悪人が、いきなり正義のヒーローぶるとは…」


「俺はヒーローじゃねえよ」ジキルは、イライラとさえぎった。「俺を裏切った野郎どもや、根性のねえヤツらは、この世にいらねえから消すのさ。罪もない国民を潰そうなんて、そんなキチガイめいたことまでは考えないさ」


「お前は、お前と私に何か違いがあるとでも思っているのか?」ジキルのギラギラと輝く恐ろしい瞳にも、プーチンは屈しない。「私がやっているのは、お前と同じことさ。この世にいらないものを排除する。私がやりたいのは、そういうことだ」


 ジキルは、何も言い返せなかった。プーチンの目には、ジキルの姿など映っていないような気がした。


「ウクライナやNATOのゴミ野郎どもなんかより、お前は自分の身を心配した方がいいんじゃないのかね」

「何?」


「ああ、そうか。お前はノコノコとロシアに足を運んできたから、つい最近まで滞在していた日本について、何も知らないんだな。そうか、そうか」

「日本?日本がどうしたってんだ?」


「たった数時間前に、私はロシア兵の半分を、日本に送ったのさ」

「何!?」


 ジキルは驚いて叫んだ。ジョウとマリヤも、息を呑んで顔を見合わせた。

 



「速報です。ロシア兵が、日本に攻めてきています。先日までウクライナやアメリカを攻撃していたロシアが、日本に攻めてきています。プーチン大統領がどのような意味を持って日本に出兵させたかは、まだ分かっておりません。繰り返します…」


 恐ろしいニュース速報が全国で流れる日本では、誰もがひどく混乱していた。


 その中で、何とか落ち着きを取り戻そうとしている、1人の女がいた。境リコだ。



「ジキルとジョウは、確かロシアに行ったのよね」リコはつぶやいた。「あの2人に聞けば、何か分かるかしら。でも、どうやって聞けばいいの?」


 困惑しているリコに、ジョウから電話がかかってきた。リコはスマートフォンを取り出し、すぐに電話に出た。


「ジョウ?今どこにいるの?」

 



 日本のリコからの問いかけに、ウクライナのジョウは答えた。

「ウクライナだ」


「ウクライナ?ロシアに行ったんじゃなかったの?」

「色々あってな。それより、日本も相当ヤバイことになってるそうじゃねえか」


「やっぱり、そっちでもニュースになってるの?」

「いや。俺は、ジキルとプーチンの会話を聞いたんだ」


 どういうことよ、と困惑気味に尋ねるリコに、ジョウはジキルとプーチンのこと、ウクライナの少女マリヤのことを説明した。


「…と、いうわけなんだ。今はピンマイクの電源を切って、お前と会話してる。プーチンにバレたら大変だからな」


「分かったわ」それから、リコは一呼吸置くと、少し照れくさそうに声を出した。「アナタたちも、色々大変でしょうね。何かあったら、すぐに電話かけてきなさいね」


「お前もな。死ぬんじゃねえぞ」


「ええ。じゃ、切るわね」


「ああ」


 携帯電話をポケットにしまったジョウは、マリヤを見た。


「とりあえず、車内でじっとしていよう。ヘタに動いて殺されるより、その方がいいはずだ」


「はい」マリヤは、素直にうなずいた。


 


「プーチン。ウクライナや日本を攻めたりして…お前はなぜ、こんなことをするんだ?」


 その頃、ロシアのポクロフ刑務所で、ジキルはプーチンに尋ねていた。ジキルには、プーチンがなぜここまでのことを平気でできるのか、分からなかった。そのため怒りも湧いてこなかったので、彼がハイド氏になることはなかった。ジキルはただ、プーチンの行動が不思議で仕方がなかった。


「なぜだって?ヤツらが憎いからさ」


「そりゃ、気持ちは分かる」人の気持ちを無視することで有名なジキル・ハイドが、珍しく言った。「俺だって、お前の立ち場だったら、NATOが嫌になっていただろうよ。だが、ウクライナ侵攻を続ける理由が分からない。攻撃したいなら、NATOを攻めればいい。罪もないウクライナ人を殺す意味が分からない。関係のない日本を襲う意味は、もっと分からんさ」


「アイツらは…ウクライナは俺を裏切ったのさ」不意に、プーチンの目に悲しみの色が現れた。しかし彼は同時に、日本を襲う理由をはぐらかした。「お前も知っているだろう?我々ロシアとウクライナは、元々はソ連というひとつの国だったことを」


「ああ」


「ウクライナは、我々ロシアとともに、これまでワルシャワ条約機構に加盟していた。他の、元々ソ連だった国のいくつかも、ワルシャワ条約機構に入っていたんだ。だが、そのいくつかの国たちは、アメリカの甘い声に誘われて、NATOに入っちまった。私は裏切られた怒りと悲しみで、身を切られるようだったよ。それでも、ウクライナはワルシャワ条約機構にいてくれた。ウクライナは、ロシアとアメリカの緩衝地帯でもあったから、味方であるウクライナは必要不可欠だったのさ。それなのに…」


「それなのに、NATOに加盟しようとしている…」


「そうだ。これで分かっただろう。私の怒りが」


「ああ、よく分かったよ。ついでに、アンタがバカだってこともな」


 プーチンは、驚いたようにジキルを見た。

「何だと?」


「今のアンタはな、それ以外のことが見えてねえんだよ。これっぽっちもな」 


「…あまり私を怒らせない方がいいぞ」


「アンタはひとつのことしか見えずに、それに一所懸命になっている」怒りのこもったプーチンの声にかぶせて、ジキルは平気で言った。「アンタは、紳士か殺人鬼にしかなれない男なのさ」笑みを浮かべたジキルの目が、ギラッと光った。「ジキル・ハイドという名は、お前にこそふさわしいかな?」


 プーチンの顔は一瞬怒りに歪んだが、何を思ったのか、ため息をついてジキルの目を見つめた。そして、ジキルに負けないほどの不敵な笑みを、その彫りの深い顔に浮かべた。


「まあ、何とでも言いたまえ。どちらにせよ、お前にはどうすることもできない。せいぜいそこで、世界の破滅を見ているがいい」


 ジキルは歯を食いしばった。プーチンは高笑いをしながら、刑務所から出ていった。


 プーチンがいなくなると、ジキルの胸に、遅れて怒りがやってきた。むらむらっと湧き上がる強い反骨心に、彼の瞳は再びギラギラと輝きだした。と思えば、彼はいつの間にやら、ハイド氏になっていた。


 ハイドの怒りの炎は計り知れない。今、この恐ろしい男の頭の中には、プーチンを潰してウクライナ侵攻を止めることしかなかった。


「もう、あの男に負けるわけにはいかない」ハイドはつぶやいた。「何としてでも、俺が勝ってやる。俺がアイツの上に立ってやる。ウクライナ侵攻を、意地でもやめさせるんだ」

 



「俺は負けるわけにはいかない」刑務所を出ながら、プーチンはつぶやいていた。「何としてでも、俺が勝ってやる。ウクライナは絶対に渡さない。NATOの人間など、滅びてしまえばいい」


 プーチンは大統領府に戻ると、新しい、恐ろしい計画を立てた。ニヤリと笑った彼の瞳は充血して赤くなっており、ハイド氏のような狂気がそこに宿っていた。


「もっと日本を攻めよう。北方領土を奪い返してしまおう。そうすればウクライナに、俺の恐ろしさを嫌というほど知らしめることができる。ついでに北方領土を返還してもらえる…これこそ、一石二鳥というものだ」


 ウクライナを完全に潰さずに、ロシアの味方に戻ってもらう方法は、これしかない…今のプーチンは、まさに狂人であった。

 



 数時間後の日本は、まさしく地獄絵図であった。ウクライナの悲惨な光景が、日本にも全く同じように広がっていた。


「全く。とんでもない大ごとに、巻き込まれたものだわ」境リコは、額から汗を流しながらつぶやいた。「プーチン大統領…あの狂人の考えることが、さっぱり分からないわ」


 そして、リコは一目散に、どこかへ走っていった。

 



 さらに数時間後。

 夜のルガンスク州では、ジョウとマリヤが車内でうずくまっていた。


 とそのとき、窓ガラスをコンコンと叩く音がして、うつらうつらとしていたジョウは飛び起きた。


 急いで窓ガラスを見ると、そこには境リコが立っていた。ジョウはドアを開け、リコを中に入れた。


「どうしたんだ」


「日本が、ひどいことになっててね。ウクライナに逃げてきたの」


「そうか。だが、ウクライナもひどい状態だぞ」


「ええ。でもウクライナには、こまっている少女がいるんでしょう」リコは、眠っているマリヤを見て言った。「日本でただ逃げまどうだけってのも悔しいから、どうせならその子を助けようと思って。別に、人助けとかではないけどね」


 微笑んだリコを、ジョウは意外そうに見つめた。

「お前にも、人の心ってモンがあるんだな」


「ちょっと、どういう意味よ」リコはジョウをにらんだ。「言ったでしょ、悔しいだけ。その子を助けるのはついで」


「分かってるよ。ちょっとからかっただけさ」膨れるリコに、ジョウは笑いながら言った。「さあ、そうと決まれば、ジキルの所に行こう」


「ジキルの所に?」


「ああ。刑務所からアイツを助け出そう。アイツがいないと、何にもできねえんだ。アイツなら、マリヤを守り、プーチンを止められるさ」 


「ずいぶんと人任せなのね」


 意地悪そうに微笑んだリコに、今度はジョウが気を悪くして言った。

「俺はジキルを信頼してるだけだ」


「分かってるわよ。ちょっとからかっただけ」


 ジョウとリコは、思わず笑った。そして、リコとマリヤは後部座席に落ち着き、ジョウは運転席に乗り込んだ。


 ジョウはルームミラーを見て、気持ち良さそうに眠っているマリヤに目を向けた。


 この無垢な少女がこれ以上傷つく様子は見たくない、と思いながら、ジョウはロシアのポクロフ刑務所に向けて、車を走らせ始めた。


 〜第6話へ続く〜