こんにちは、あすなろまどかです。
現在、ロシアがウクライナ侵攻をしていますよね。地球は危機に陥っています。
信じてもらえるかどうかは分かりませんが、私は半年ほど前から、戦争が起きるのではないかと考えていました。
とはいえ、私の予想は日本と韓国の戦争だったので、当然「予言した」なんて偉そうなことは言えません。
が、今の危機的な世界の状況を見つめ、これから世の中はこうなっていくのではないか…と予想することがあります。
「世界はこれからこうなる」という私の予想を、(フィクションを交えて)小説として書こうと思います。
というわけで、連載中の小説「ジキルハイド」の第4話〜第6話は、私の予想する世界が舞台となります。
(「ジキルハイド」は1話完結型の小説だと最初に書いていたのに、そうはならなさそうですね…^^;すいません。)
前回の第3話はコチラ。第3話は、ウクライナ侵攻とは全く関係のない話です。↓
「全く、お前はイかれてやがるな」男原嬢は呆れたように、しかし微笑んで言った。「境リコに初めて会ったときもそうだった。お前はいつだって、自分から面倒ごとに首を突っ込むんだからな」
「そんな俺に文句も言わずついてくるお前も、相当イかれてるぜ」ジキル・ハイドも微笑んだ。「とにかく、ついてきたなら最後までついてきてくれよな」
「当然だ」
現在、2人はロシアのモスクワを車で走っている。ウクライナと戦争真っただ中のロシアを、である。揉め事の見物を好むという、変わった性癖を持つジキルは、ジョウを巻き込んでこの国へやってきたのだ。
「しかし、お前はこんな場所で、一体何をする気なんだい」
「ちょっとな。会いたいヤツがいるもんでさ」
質問を投げかけてきた運転席のジョウに、助手席のジキルは答えた。
「会いたいヤツ、か。じゃあお前は、ただ首を突っ込むだけでなく、何か目的があるってことだな」
「ああ」
ジキルがうなずくと、ジョウは右にハンドルを切った。
「さあ、今日泊まるホテルに向かうとするか」
しばらく車を走らせていると、やがて大きなホテルが見えてきた。ジョウは再びハンドルを切り、ホテルの駐車場へと入っていった。
車を降り、赤い絨毯が敷き詰められたロビーを歩いていくと、2人はフロントの男に証明書を出した。
「予約した、田内です」とジキル。
証明書には2人の顔写真が載っており、ジキルの方には「田内 志文」、ジョウの方には「村上 博基」と名前が書かれてある。日本人観光客として、偽名を使用したのだ。
「かしこまりました、田内さま、村上さま」とフロントマンはロシア語で答え、鍵がついている赤い札を、ジキルに手渡した。「お2人のお部屋は、1222号室でございます」
「ありがとう」
「あっ。お待ちください、お客さま」
ジキルが札を受け取り、行こうとすると、フロントマンがジキルを呼び止めた。
「何だい?」
「お部屋に行かれる前に、色々と手続きがありまして…」
「手続き?」
「はい。少し…」
そう言うが早いか、フロントマンは素早く何かを取り出し、ジキルとジョウの顔に近付けた。
「あっ!」
2人はその正体が催眠スプレーだと分かったが、もう遅かった。フロントマンは、ジキルの顔の中心に、大量のスプレーを発射してしまった。
何とか目を覚ましていようとするジキルだが、さすがの彼も襲いくる眠気には勝てず、床にバッタリと倒れ込んでしまった。
「ジキル!」
ジョウはジキルを起こそうとしたが、自身にもスプレーが向いたので、一目散にホテルを飛び出し、車で逃げていった。
「すまねえ、ジキル。だが、後で必ず助けに来るからな」
ジョウはホテルを振り返って独りごちると、隣国・ウクライナへと猛スピードで車を飛ばした。
ジョウは、ロシアのモスクワから、ウクライナのルガンスク州へとやってきた。ここにしばらくの間とどまり、ジキルをどう助け出すか、考えるつもりでいるのだ。
「あのフロントマン、どうやらただ者じゃあなかったな。俺たちを悪党だと見抜いてやがる。ジキル・ハイドと男原嬢の名も、バレてしまうかな」
ブツブツとつぶやきながら、ジョウはコンビニの前で車を止め、車から降りた。
と、ジョウの前に、15歳くらいの少女が立っていた。少女は青い瞳に涙を溜め、体をブルブルと震わせていた。
「オイ、どうした?大丈夫か」
思わずジョウが尋ねると、少女は口を開いた。
「た…助けて…ください…」
かすれた声でようやく懇願すると、少女は気を失い、その場に倒れかけた。ジョウは小さく「おっと」とつぶやき、あわてて少女を抱きとめた。
ジョウは少女をゆっくりと車内に横たえると、コンビニに入っていった。
しばらくして、ジョウが車内に戻ってくると、少女は目を覚ましていた。
「よう、気が付いたか」
「はい。先ほどは助けていただき、ありがとうございました」
「よせ。礼なんか、言われ慣れてねえんだ」
深々と頭を下げる少女に、ジョウは少し照れ臭そうに言い返した。そして、コンビニの袋から食料を2つ取り出し、1つを少女に手渡した。
「食え」
少女は一瞬間、戸惑いの表情を見せた。しかしすぐに、首を振って拒否した。
「いけません。今の私は一文無しですから、何のお礼もできません」
「礼は言われ慣れていないと言ったろう。くだらないことは気にしねえで、とにかく食え。うまいぞ」
優しく微笑んだジョウを見て、少女はそっと、食料を受け取った。
「おいしい」頬張った少女は、驚いたような顔でジョウを見た。
「な」
ジョウと少女は、顔を見合わせて笑い合った。
「言われ慣れていないとおっしゃっていましたが、どうしても、改めて言わせてください。本当にありがとうございます」少女は微笑んだ。「私の名は、マリヤ・レーシ・モウチャーンです」
「俺は男原嬢だ。ジョウと呼んでくれ」
「ジョウさんですね」マリヤという少女はそこで一息置くと、笑みを崩した。「ジョウさん。あなたはウクライナ人ではないようだけれど、なぜこの国へ来たのですか?今は、とても危ない場所になっているというのに」
「それはだな…」
ジョウが答えかけると、どこからか別の声が響いた。
「それはだな、俺がジョウを誘ったからさ」
「ジ、ジキルの声だっ」ジョウは大変驚き、あたりを見回した。「オ、オイ、ジキル。どこにいるんだ?」
そのときマリヤが、ジョウの服に取り付けたピンマイクに気付いた。
「ジョウさん、これ」
「あっ…。ジキル、お前、いつの間に…」
「催眠スプレーをかけられる、直前だよ。何とか付けるのに間に合ったようで、良かったよ。
ところでジョウ、お前、俺がいないからってカッコウつけちゃって。可愛い女の子を助けて、イキがってんじゃねえぞ。
よせ。礼なんか、言われ慣れてねえんだ」
ジョウの声真似をして楽しそうに笑うジキルに、ジョウは怒りと恥ずかしさで真っ赤になって怒鳴った。
「うるせえな!スプレーをかけられたお前なんかより、俺の方がよっぽどカッコウいいだろ!」
ジキルは楽しそうに笑い声を立てると、今度は真剣に声を出した。
「マリヤ。聞こえるかい」
「えっ?は、はい」マリヤは、急いで答えた。
「ピンマイクで聞いて、アンタの名前は分かってるよ」ジキルは続けた。「アンタは、ウクライナ人だね。家族はどうしたんだ?」
「殺されてしまいました」マリヤは、震える声で答えた。「私だけが生き残ってしまったんです。でも、いとこは生きています。いとこは、このルガンスク州ではなく、首都のキエフにいます」
「いとこ…キエフ、ね。分かった」ジキルは、彼にしては珍しく、優しい声を出した。「アンタは善良な人間みたいだから、何とかしてやるよ」
「何とか…いとこを何とかできるんですか?」
「約束はできないが、挑戦してみる価値はある。少し待っていてくれ」
「はい」
素直にうなずいたマリヤだが、わけが分からず、ジョウと顔を見合わせた。
「あっ、そうだ。ジキル、お前はいま、どこにいるんだ?」
ジョウが突然思い出して、質問した。
「おおっと、言い忘れてたな。俺はな、いま刑務所ン中だ。情けねえけどよ」
「刑務所?モスクワのか?」
「ああ。ポクロフ刑務所だ」
「ハハハ!お前、本当に情けねえなあ」
今度こそは、とばかりにジキルをからかうジョウだが、ジキルは薄い笑い声を立てた。
「ああ、確かに情けないよ。だがな、結果的には、これで良かったのかもしれねえ」
ジキルの意味深な言葉に、ジョウは眉を寄せた。
「どういうことだ?」
「俺の会いたいヤツが、ロシアにいると言ったろう?そいつがポクロフに来てくれるんだってさ。これで、俺がそいつの元へ向かう手間が省けたってもんさ」
ジキルの言葉を黙って聞いていたジョウは、少し声を落として尋ねた。
「なあ、ジキル。お前の会いたいヤツってのは、いったい誰なんだい。そろそろ教えてくれてもいいだろう」
「まあ、もうちょっとばかし、待ってくれよ」ジキルは、ジョウの言葉にかぶせて言った。「もう少ししたら、そいつがポクロフに着くんだ。俺とそいつの会話を聞けば、たちまち誰だか分かるだろうぜ」
「フン、まあ、勝手にしろよ」
「おっ、噂をすれば来やがったぜ」
ジキルの言葉通り、ジョウとマリヤが聞き入っているピンマイクから、コツコツという足音が聞こえてきた。
そして次の瞬間、ジキルが発した言葉に、ジョウとマリヤは驚いて顔を見合わせた。
「よう、しばらくぶりだな。プーチン大統領」
〜第5話へ続く〜