こんにちは、あすなろまどかです。
久しぶりに「あすなろの木」書きます。
一話完結型のエッセイなので、第四話を読んでいなくても大丈夫です。
第五話 恋は不可解ダ
わたしにはいま、好きな男がいる。自分中心の恋愛話なので、「興味ないわ〜」という声も多くあるだろう。
その声に一番共感するのは、恐らくわたし自身だ。その通り、他人の色恋沙汰には一切の興味も持てない。
と前置きしてから、あえて書かせていただこう。
第五話にして、わたしのエッセイ史上最高にどうでもいい話である。
最初に逢ったとき、わたしは彼が嫌いであった。
気遣いができなくて、自分のことしか考えられなくて、勉強を真面目にやらず、かと言って不良になったり退学したりする度胸もない。ギャグはつまらないのに自分では面白いと思っていて、同じネタを何度もみんなに披露していた。
顔は大してカッコよくもなく鼻もデカいクセに、自分ではカッコイイと思い込んでいるナルシストだ。オマケに、制服をだらしなく着ていればカッコイイと思っているところもあって、第一印象はもちろん最悪であった。何がどうなっても、彼だけは好きにならないだろうと思っていた。
それが奇妙なことに、どうしたことか、いまのわたしは彼が好きである。
いつから好きになったのか、なぜ彼を好きになったのかは覚えていないが、先に話しかけたのは、おかしなことにわたしの方だった。それはハッキリと覚えている。
明確に好きになった日は覚えていないが、気になったキッカケならば記憶に残っている。
何の話題かも忘れてしまったが、とにかくある日、彼はいつものように男友だちと他愛もない話をしていた。彼の声は大きく、オマケに何度、席替えをしてもなぜか毎度近い席になるので、話題はいつも耳に入ってくる。その日も、わたしは聞きたくもないのに彼らの話を聞いてしまった。
そのとき突然、彼がわたしの胸に刺さることを言ったのだ。その内容は「教師は死んじまえ」といったような、他の人間にはおよそ刺さらないだろう言葉であった。
そして彼は淡々と、教師がこの世に存在するデメリットについて語り始めたのである。それは、誰がどう聞いてもムチャクチャで、自分勝手な言い分のみで構成された主張だった。わたしはその主張に、とんでもない天邪鬼っぷりを見てしまった。天邪鬼はわたしの性格そのものであり、わたしが大好きな語り口だ。
青くて、若くて、筋の通っていない、自分中心のひねくれた意見のみを抱える孤独な男。彼はそんなどうしようもない人間なのだと、そのときわたしは確信した。
わたしと彼は、同じだと。
わたしもとんでもないひねくれ者で、そのせいで、小、中学校ではずいぶんと人に嫌われたものである。イヤになったわたしは、同級生がほとんど入学しない遠い高校を志望した。(志望理由は、それだけではなかったが。)そこで出逢った自分と似たような男に、気持ち悪いが惹かれ始めてしまったのだ。
だからこそ言うのだ。「なぜ彼を好きになったのか分からない」と。
わたしは、ずっと自分が嫌いだった。ひねくれていて、他人から相手にされなくて、思い込んだら一直線のクセに理由がないと納得できないという、どうしようもない人間だからだ。わたしがいままで好きになってきた男たちは、みな、素直で、他人から好かれていて、慎重なしっかり者というカンペキな人間だった。自分が嫌いだから、自分とは正反対の男をずっとずっと追いかけ続けてきたのだ。
それが彼のような、自分に似ているイヤな男を好きになってしまうとは、神さまのイタズラというヤツだろうか。
それとも、ダメな自分を受け入れ、少しずつ愛せるまでに成長したのだろうか。
真相は誰にも分からない。もちろん、このわたしにも。一番知りたいのは、(いや、「唯一」知りたいのは、)このわたし本人なのだけれど。
(おしまい)