タイトル「精神の覊旅(きりょ)」
あの子は
人の嫌がることをする天才なのです
いいえ、あの子は決して
劣等生などではありません
むしろとてもやさしい子なのです
あの子はねぇ よく無理をして笑うのですよ
教師のわたくしとしては
もっとほんとうの表情を
見せてほしいものなのです
そこを無理して笑うから
わたくしは胸が痛くなるのです
あの子はもう六年間
一粒とて涙をこぼしていませんから
だめですよ
あの子はいまに
まるで笑顔の面を
顔にすっぽりとはめられたかのように
笑うことしかできない子に
なってしまいますよ
そうしていつかは
高らかに笑いながら包丁の血を舐めることを
快楽として生きてゆくようになるのです
えぇ もうだめですね
いや わたくしにはどうもできませんったら
あの子は一生を笑って過ごすのです
もう笑いながらでしか過ごせないのです
見捨ててはいません
ただ、わたくしももう疲れてしまったのです
いまに あの子とわたくしの身体を
ロープでしばって
透きとおった川に沈んでしまえば
きっと ふたりきりで
新しいしあわせを探す旅に出れます