こんにちは、あすなろまどかです。

 今回は、ショートショートを書きました。
 それでは、どうぞ。



「死んだ小説家」

 一色は天才小説家であった。窓の外をぼんやりと眺めているだけで、彼にはインスピレーションが湧いてきた。それも凡庸なものではない。読んだ者は誰もが彼を天才と崇めたのだ。
 彼は自分の才能を知ってか知らずか、インタビューではいつも他の小説家を蔑むようなことを口にした。この作品は大したアイデアでもないのに傑作扱いされているだの、あの作品は脇役に全く魅力がないだの、彼の口から飛び出すのは批判のオン・パレードであった。
 それらを一切オブラートに包まず、常に厳しい口調で小説に意見を出す。時には、「コイツは辞めた方がいい」などと語ることもあった。世の小説家はみな彼に嫉妬し彼を恨んだが、実力者に口出しする勇気など誰も微々もなかった。

 ある日、素人の女小説家である美樹原は、満を持して発表した長編小説を一色によりストレートに批判された。彼の信者たちは、彼の肩を持って美樹原を批判した。その中には、彼女の小説に指一本触れていない者も多くいた。
 様々な人物からの誹謗中傷に、彼女の心は蝕まれていった。ポストに入っているのは、請求書ないしは悪口が書き込まれている手紙ばかりだった。
 ついに、美樹原はそんな生活に耐えられなくなった。裕福な立場から自分を蔑んできた天才一色の存在は疎ましく、美樹原は家に引きこもり、彼を殺すための綿密な計画を企てた。

 ある日の新聞紙のトップ記事は、世界中の人々を戦慄させた。天才小説家の一色が何者かによって暗殺されたという恐ろしい事件内容が、そのザラ紙には刷り上げられていたのだ。
 彼の妻は嘆き悲しみ、押しかけてきたマスコミに「暗殺者を絶対に許さない」とコメントした。警官隊もすぐに動き、事件が多くの者の耳に入る頃には、様々な家が家宅捜査により攪拌された。

 

 警官隊の必死の捜査により、犯人は小説家の美樹原と断定された。彼女は追ってくる警官隊から数日逃げ回っていたが豪雨の中で河川敷に追い詰められ、それからはかけられる手錠に抵抗しなかったという。


 彼女が逮捕された翌朝の新聞には、批判することで有名だった一色が唯一尊敬していた小説家の言葉が掲載されていた。

「俺は彼女の作品、結構好きだったんだよ。一色が言っていたように、ストーリーは平凡で、展開も雑多なものだけどね。でも、他の小説家にはないキャラクター造りの上手さと、そして何より勢いがあった。俺としては彼女の新作を読んでみたかったんだけど、もう書けないだろうねえ。残念だよ、せっかくの才能が死んでしまったみたいで」