私たちは手工業に携わる職人さんの仕事をもっと知りたい、そしてもっと「てしごと」の魅力を知りたい、という想いで活動を始めた。

 

まず、自分たちが体験をして、お話を聞かせてもらうことから始めようということになった。はじめに訪れることを決めたのは、鎌倉。

鎌倉は自分たちにとって身近な場所でもあり、「てしごと」に携わる職人さんがいるイメージだった。

「てしごと」のイメージが一番大きかったのは陶芸。職人さんから陶芸を習ってみたかった。

 

106日土曜日、私たちは鎌倉の明月窯を訪れた。

体験はもちろん、その後聞くことができたお話に、将来へのヒントを与えてもらったような一日だった。

 

 

 明月窯は北鎌倉に1957年から62年の歴史を持つ。

先代の 河村蜻山(現在の奥様のお父様)が移住して明月窯を築き、現在はご夫婦お二人で窯を守っている。 

明月院を通り過ぎ、しばらくすると明月窯の看板がひっそりとたたずんでいた。少しどきどきしながら工房のドアを開けると、工房の奥からにこやかな旦那さんが出てきて私たちを迎えてくださった。 

 

私たちに板づくりの指導をしてくださったのは奥さん。優しいたたずまいのおくに芯の強さを感じ、窯を守っている人だと納得できるような女性だった。

 

板づくりはまず、自分で粘土を伸ばすか、粘土を機械で切るか選ぶところから始まった。

私たちはそれぞれ、機械を使ったのと使わないのを作ることにした。 

 

機械で切るとこんなにきれいに形がつくれる。

普段製品をつくるときは、形のきれいなものをつくるために機械を使って切ることが多いそう。 

 

 

機械を使わないで生地を伸ばすときは全体が均等な厚さになること、思い描く形に近づけることを心掛けなくてはいけない。 

四角い形にするために手で四方向に土を伸ばす。

大体四角形が出来てきたら、延べ棒で伸ばしていく。

 意外と力を入れたほうがいい。

気を抜くと伸ばしすぎないための二枚の板が外れてしまう。

そうなると、棒が土に埋まって跡がついてしまう。思い描く形にするには色々な方向に伸ばさなければいけない。

  


土を十分に伸ばしたあとは、ふちを作るために生地のはしを手でつまむようにしていく。

 

強く押しすぎるとボコボコしてうねりが出来てしまう為、優しく滑らせるように土を持ち上げるのがコツだそう。 

 

 

 

形を形成し、デザインを施した後は釉薬(ゆうやく)を選ぶ。釉薬はガラス素材のコーティングのようなもので、釉薬によって作品の色や質感が変わってくる。

選ぶ釉薬によって柄の出やすさ、発色は生地の土や窯の温度によって変わる。

 

 体験はここまでで、 釉薬を塗り窯で焼く過程は旦那さんや奥様が施してくれる。本当に一から陶芸をしようとおもうと、土を練って空気を抜いたり、ロクロの真ん中に土を据えたりする、「形をつくる前」の作業が大切なんだそう。体験でできるのは陶芸のほんの一部分。

 

その後、私たちは焼き窯の見学をさせてもらった。 

明月窯で使っている窯は電気釜だそう。電気を使わない窯は焼きムラが多いうえに、煙が出やすいため、現在使われている数は少ない。伝統の中にも技術の進歩がある。 

 

窯は10001200度くらいまで24時間かけて温度を上げる。930度くらいから薪を入れ、6~7時間くらい待つ。燃えている間はその場を離れることができるが、旦那さんは窯の前に座っていた。 

 

また、薪も何でもよいわけではない。松の種類によってヤニがでるもの、煙が出ないものなどが存在し、作品に大きく関わる。釉薬も納得のいく調合を考えるなど、「こだわり」に際限はない。だからこそ、厳しい世界なのではないだろうか。

いいものはいい加減に作ることはできないという事を改めて感じた。 

 

 

 

時代が変わり、物流も発達したため、全国の土の仕入れが可能になった。そのため、産地ごとの特色が出しづらくなってきたのも事実。昔は素材で特色を出すことができたが、いまは技術で特色を出すしかなくなった。鎌倉の地は土どころではないため、自分の個性を出してオリジナルをつくる作家が多い。「てしごと」も時代、土地によって変化していく。

 

 

奥さんも旦那さんも京都で修業を積んだ。旦那さんは陶芸家の娘である奥さんと結婚するために陶芸の道に進んだ。結婚してから、24歳の旦那さんは京都に修業に行った。訓練校で3年、釉薬の勉強と修業で3年。はじめは土を見ることさえ初めてだったという。

 

旦那さんの新しい作品。シンプルで洗練されたデザイン。

 

 

 

奥さんは小さい時から陶芸に触れて育った。家には陶器があり、自然と目が養われたそう。はじめは服飾をしていたが、陶芸の道へ。京都で職人さんの元、絵付けの勉強を3年行った。「自分はずっとファッションに携わると思っていた。」と奥さんは言った。人生はどこでどうなるかわからないと感じた。

 

 

 奥さんの絵付けした作品。

絵付けによってカップがかわいらしくなる。

 

 

 

陶芸体験をしに来た私たちに長い時間付き合って下さり、色々な話をして下さった。とても温かいご夫婦だった。 

 

 

 

「作品を作っていると『隠せない自分』がでてくる」と旦那さんは教えてくれた。

「それを生かしていくのはおもしろい。自分の向いている物を作るのが大事。やっていれば自分の向き、不向きが必ず出てくる。やりたくても、できないときもある。やっていれば、できるようになるものもある。できないときはきっぱりやめる。」

 

奥さんは、「作品に出てきてしまう味は誰にも真似できないもの。几帳面な人はおおざっぱなものがつくりたいのにできなかったり、おおざっぱな人は几帳面なものがつくれなかったりする。だからお互い羨ましくなる。」と教えてくれた。

「夢中でやれるものをやる。これが一番大事。」

 

お二人の言葉には重みがあった。

 

 

 

自分らしさに磨きをかける。 

陶芸って まるで人生みたいだ、とおもった。

「自分らしさ」ってどんな感じだろう、「夢中になれるもの」ってなんだろう。

いつ、なにがきっかけで見つかるかは人それぞれなんだと思う。正直まだわからない。

 今はなんでも「やってみる」ってことが大事なのかもしれない。

 

お皿の完成が待ち遠しい。

 

 

 

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

わかりにくいとか、質問でもなんでもいいので、コメント頂ければ嬉しいです。

次回もよろしくお願いします