その日は覚えている限りでも最悪の日だった。

日常、当時の私は怒られて怒られて

ナニカがいっぱいいっぱいになったときに風呂に入った。

いつものようにいつもの場所に、
ほとんどオートプログラムの様に動いてしまうため、最悪の状態で彼に会いに行ってしまった。

あー…来ちゃったなぁ。。。

そんな気分で青白い光源を見ると、
以前見ていたように、
彼は球体に頬を寄せて泣いていた。

それを見てナニカが弾けた感じがした

泣かないで

泣かないで。

ねぇ。どうやったら泣き止んでくれるの?

片羽根だから痛いの?

片羽根だから何処にもいけないの?

私の羽根をあげるから。

お願い。。。笑って

「うぁぁああああああ!!!!!」

私は叫びながら

左の手で右の羽根を、根元から毟り取っていた

なにか、弦が切れるようにブチブチと音というか感覚というか
金色の液体か辺りを飛び散って
赤黒い世界が鮮やかな赤を浮き上がらせた。

いままで薄暗かった部屋が、蛍光灯を灯したように鮮やかに

私の左手は光りに濡れて輝いて
金の輝く雫を垂らした糸のような羽根の束を、彼に差し出した。

「私の羽根をあげるから。だからもう泣かないで。どうかどうか泣かないで」

彼は哀しそうな顔を私に向けた

差し出した羽根を彼は受け取った。

明るくなった部屋というか
被膜の外から警戒音が聞こえる

「…もう行かなくちゃ」

彼はぼそりと呟いて。黙った。
私も何か聴く気にはならなかった。
そうしていると、外の騒ぎが耳に飛び込んでくる。

<失敗だ。彼女にはまだ早すぎた>
<彼女の手当を>
<ルシフェルからの隔離を>
<座標の消去を>
<担当を現場に!早く!>

聞こえてくる会話をぼんやりと聞きながら、私は痛む肩を押さえている。

彼女って…私のことか。。。

また何かの試験だったのかな。

私、また失敗しちゃったんだ。。。

「違うよ」

彼の声が自分の内側に聞こえる

「僕はたまたまそこにいただけ。そこにたまたま君がきただけ」
「君はどんなときでも、どんな状況でも<よかれ>と思った最善を行っているに過ぎない」
「例え全てが空回りしていたとしても、君の気持ちは嬉しかったよ。コレは君が僕を思ってのことなのだろう」

そうか…そうなのか。
間違っていたけど、間違ってないのか。。。よくわからないな

ああ、背中がズキズキする。。。
背中から金色の液体が止まらない

痛いよ。
痛い

誰かか私を支えている。
人に囲まれている。
でも痛くて見えないや

感触として、彼じゃない。
もう彼は行ってしまったのかな。

本当はどうすればよかったのかな。

私がもし、ちゃんとやれていれば、みんなみんな祈りの風に包まれたの?

もう立っていられない。

彼も行ってしまう。

この時間も終わってしまう。

最後に、最後に一言。ひとこと
「…さようなら。ルシフェル。いつか笑って。ね。。。」

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その日から、風呂に入ってもあの赤黒い被膜の部屋に辿り着くことはなくなった。

きっとあの人たちの言うとおり、座標が消去されたのだろう。

右の肩の痛みは、あの日からしばらく痛かったり、時々酷く痛くなったりしていたけれど

こくごく最近、友人がルシフェルから返してもらって付け直してくれるまでそれは大穴が開いたままだったりしたのだが。。。それはまた別のお話。

時々思い出して。

彼が、ルシフェルが、

笑ってくれているといいなと

時々思い出して思っていたりするのです。