今日から2週間かけてこの物語を完成させていきますね。
遠い遠い昔の思い出です。
桜島の朝焼けを撮りに行ったかえり、思い出の地に行ってみた。
鹿児島市内から錦江湾沿いの海岸線を桜島を右に眺めながら20分くらい走ったところにある日豊本線の「しげとみ」という駅。
僕は高校に入って間もないころ友達の紹介でこの「しげとみ」に住み女子高に通っている美智子という子と付き合い始めた。
付き合うと言っても高校を卒業するまで手を握る程度でキスもSEXもしなかった。
それほど奥手な僕ではなかったが、そんなことしてはなんか可哀そうって思っていた。
それにいつも美智子の友達の「クロ」って子が金魚のフンみたいにくっついていたせいもある。
いつもケラケラと笑いが絶えずとても明るい子でどことなくドリカムの美和に雰囲気が似た子だった。
いつもこの「しげとみ」の海岸や友達の下宿でレコ-ドを聴いたりして遊んでいた。
友達の下宿はいわゆる不良のたまり場で、悪ダチどもはいつもナンパした女の子を連れ込んでは
「イケナイこと」をしていた。
ある日、下宿で遊んでいた僕と友達と美智子とクロの4人で腹が減ったのでラ-メンでも食いに行こうと下宿の外階段を下りていった。
するとそこに白いセダンが止まっていて近くに30過ぎくらいの兄ちゃんが4人立っていた。
そのうちの二人がこちらへ歩み寄ると「ちょっとお前らこっちに来い」と言って僕と友達は横の空き地まで連れていかれた。
美智子たちは残りの二人になにか話しかけられていた。
僕はてっきり自衛隊の勧誘かとおもった、実際学校帰りや街を歩いているとき何度も勧誘されていたから。
ところがその兄ちゃんたちは唐突に「お前らあの部屋で何をやってた」と言ってきた。
突然のことに訳が分からなくキョトンとしていたら、再び「なにやっちょった~」とコテコテの鹿児島弁でまた聞いてきたので「何もしてません、レコ-ドを聴いてたんです」と答えたら、兄ちゃんは胸ポケットから黒革の手帳を取り出すと、それで僕の頭を「ポン」っと叩きながら「うそつけ~」と言いながら手帳を目の前に突き出した。
そこには金色の文字で「鹿児島県警」って文字が刻まれていた。
この4人の兄ちゃんたちは鹿児島県警の「刑事」だった。
ひとりの刑事が突然「お前らあそこで売春してるだろ、ちゃんと情報が入ってるんだ」と強い口調で捲し上げた。
僕はまったく意味がわからなかった。
なんでそんなことを刑事に言われなきゃあならないんだ。
当時、援助交際って言葉もない時代、もちろん「売春」って言葉は知っていたが、それは「夜の女がお金で身体を売る」という自分たちとはまったくかけ離れた世界の話であり、どこで僕たちに繋がるんだ・・・と一瞬思ったが。
なるほど、確かに下宿の悪ダチどもは頻繁に女を連れ込み不純なことをしている。それは事実だ。
たまに友達に回しているとか、近所からもその手のクレ-ムが多いと聞いたことがある。
でも自分たちにはまったく関係のない話なので「そんなことしてませんよ、女友達とレコ-ドを聴いてただけです」と突っぱねた。
すると刑事は「なら、女たちに聞くからな」と恫喝っぽく言ってきたので、僕は自信をもって「構いませんよ、聞いてください」と言って彼女たちのほうを見ると刑事の前で二人は泣いていた。
多分同じことを聞かれたいるんだろう。
頑として認めない僕たちに業を煮やしたのか、住所、名前、学校名など聞き出したのち「お前ら、これからずっとマークしてるからな」と捨て台詞を吐いて帰っていった。
その後、不特定多数の女の子が下宿にくることはめっきり減った。
下宿でそれぞれの本命の彼女と会う機会が増えてきたのは「卒業」が近づいてきたせいもあるのだろう。
僕が神奈川に進学するため鹿児島を離れるとき友達が駅のホ-ムまで見送りに来てくれた。
美智子はちょっと離れたホ-ムの柱の陰でハンカチを握りしめ泣いていた。
僕たちはどちらからもなく「この日で最後」ってわかっていた。
ベルが鳴り列車のドアが閉まる直前、美智子が駆け寄り僕に手渡したのは美智子が大好きだった「アリス」のカセットテ-プだった。
それは美智子の涙で濡れていた。
走り出した列車の中でひとり泣いた。
楽しかった青春時代の思い出が駆け巡り ひとり泣いた。
「さらば青春」「さらば帰らざる日々」・・・と映画の主人公になっていた。
僕の涙がカセットテ-プの上で、美智子の涙と溶け合った。
神奈川に来て3か月が過ぎた初めての夏休み、僕は鹿児島に帰ってみた。
暫くすると実家に電話があり、出てみると美智子からだった。
受話器の向こうから「ケラケラ」と懐かしいあの声が聴こえた。
僕たちは当時流行っていた「天文館」にあるディスコ(死後?)に行こうと話がまとまった。
久しぶりに美智子を見てびっくりした。
いつも制服で三つ編みの髪しか見たことがなかったが今日の彼女は背中まである綺麗な黒髪とミニスカ-ト
身体のラインがくっきりわかる・・・いわゆるワンレンボディコン(死語?www)ってやつ。
僕たちは昔を懐かしむように踊った。途中のチ-クタイムでムードのあるドナ・サマ-の曲が流れる中、僕は美智子とキスをした。
初めてのキスをした。
気が付けば0時をとっくに周っており、美智子が住む「しげとみ」までの電車やバスはとっくにない時間になっていた。
僕は「どうする?」って聞いてみた。
すると「今日は○○ちゃんと一緒にいる」と答え、更に「初めては○○ちゃんって決めてたの」・・と言った。
僕はびっくりした、そんなことこれっぽっちも思っていなかったからだ。
この子と会おうと約束して今までそんなこと1ミリも思っていなかったし、純粋に昔に戻って思いっきり遊んで、いつものように「じゃ~またね、バイバイ」って帰ると思っていたから。
女子大生になって、こんないいオンナになって、言い寄ってくる男も少なくないはず。
それを今まで・・・・
僕は感極まって多くの人が行きかう繁華街の真ん中で美智子を抱きしめていた。
・・・・中略・・・・(笑)
朝、美智子を駅まで見送った。
昨夜のことには一切触れないで、「今度いつ帰ってくるの?」とかも聞かない。
ベルが鳴りドアが閉まる直前、美智子が見せたのは 「あの時の涙」・・・ではなく {満面の笑顔だった」
そして 「じゃあね、バイバイ」と言って手を振った。
「またね」・・・ではなく「バイバイ」だった。
動き出した電車を目で追いながら、美智子は「これが本当に最後の最後」って決めていたんだな・・・と思った。
女子大生になって大人になって、これからいろいろ楽しみたい。恋もしたい。
少女から大人になっていくのに通らなければならない道
その女の子の一番大切なものをあげるのは、付き合いがあり気心が知れてる僕しかいない・・と思ってくれたのだろう。
そして大人になった瞬間、これからもっともっと人生を、青春を楽しもうと思っているんだろうな・・と思った。
小さくなっていく電車に「さよなら・・・美智子」
「バイバイバイ・・・MY LOVE」・・・ってつぶやいた。 な~んてね、チャンチャン。
これで僕の遠い遠い昔の女々しい思い出は completeです。