「主役?それ、永遠に私のことよ!」
小説、1話目。画像はキャンバで作成。3人の女優が、18世紀ヴェルサイユにタイムスリップし、悪辣美女、ポリニャック夫人にいいようにされるマリー・アントワネットの心を魅力で何とかするお話し。多少文章と異なる絵になってしまうのはご容赦ください。ウィーン、深夜のシュテファン大聖堂。荘厳な歴史建造物が、今では博物館としての役割を果たしている。深夜の館内には、警備員もいないと思いきや・・映画クルーで大賑わいだった。俳優、助監督、カメラマン、照明担当スタッフ、音響技師、そして彼らのアシスタントたちが、ウィーンの冷たい夜に忙しく動き回っている。ハリウッド映画の撮影でも、シュテファン大聖堂のような場所を日中に貸し切るのはほぼ不可能だ。だからこその深夜撮影。照明チームが、昼間の太陽を再現するために必死に光を作り出している。暗闇の中に、人工の昼間が広がっていた。「Whispers in the Cathedral」(大聖堂の囁き)――それが今回の映画のタイトル。今日の撮影は、主人公たち3人の女性が初めて出会う重要なシーンだ。昼間のシーンを再現するため、セット全体が明るく照らされている。光が壁に反射し、大聖堂の広がりをさらに強調する。エイブリィ・スターリングは、カメラの外で静かに佇んでいる。3回目のリテイクを前に、彼女の心の中は不満で満ちていた。リテイクが原因ではない。それだけではない。「私のクレジットが3番目だなんて…。もう一度主役の座を取り戻さなきゃ」エイブリィはれっきとしたハリウッド女優だが、陰りが見え始めている.。それが今回の映画での扱いにも表れている。彼女より上に名前が並んでいるのは二人の女優。トップは、プロデューサー兼主演女優の演技力抜群のアイリス・ヴァンダーウォーター。次がブロンドと美貌で名高いフィービー・ラブジョイ。二人の存在が、エイブリィの心に焦りを募らせていた。エイブリィはイライラを抑え、顔ににこやかな笑みを浮かべる。高度なテクニックだ。ハリウッドの大女優だけが持つプロフェッショナリズム。しかし、心の中ではその笑顔が薄れていた。(どうしてこんなに人の心は移ろいやすいの・・?私が何をしたっていうの?私は演技して微笑んでいただけなのに、なぜ、手のひらを返すようにファンたちは遠ざかっていくの?)モブに指示を出す助監督が視界に入る。「観光客役なんだから、もっと自然に、目立たないように」とでも言っているのだろう。さっきはオーバーアクション過ぎだった。おかげで階段のシーンがリテイクになってエイブリィのふくらはぎのだるさを感じている。視線を動かせば今度は監督の表情が目に入る。曇っているのが分かる。モブたちの演技がまずいから?それとも、さっきの私の演技がイマイチだったのかしら?――彼女の心に不安がよぎる。監督に演技を認めてもらえなかったら、次の役が、いい役が、くるのだろうか?「いや、違うわ。きっと音響技師が変な反響音を拾ったか、照明が昼間の光を作り切れていないせいだわ」エイブリィは、自分を落ち着かせるように言い聞かせる。「始めるぞ!」監督の声が現場に響き渡る。エイブリィは気を引き締める。カメラは天井から。彼女が階段を駆け上がるシーンを真上から捉える。体力が消耗するが、それを見せるわけにはいかない。スタントダブルも使えない。この角度では、顔はごまかせない。階段の上には、アイリスとフィービーが演じる役が待っているという設定だ。エイブリィは、ここで爪痕を残さなければならない。昼間に見たSNSの投稿が頭をよぎる。「エイブリィ・スターリング、そろそろオワコン?」「Is Avery Sterling officially over? 👀 #WashedUp #FadingStar」「承認欲求強すぎ女優!」「Actress way too thirsty for attention! 💁♀️ #AttentionSeeker」承認欲求なんて誰でも持っているものじゃないの?その辺のインフルエンサーレベルを見なさいよ。世界中全てが持っていて、承認をひたすら争っているのに、なんで私だけそんな風に言われなくちゃいけないの?心が一瞬、黒い雲に覆われるが、彼女はそれを振り払う。「エイブリィはプレッシャーなんて必ず払いのけるのよ!」エイブリィは、階段を駆け上がり、女性に向かってセリフを放つ。女性は二人。アイリスとフィービーが演じる役。クレジットが上の二人の女優たちだ。「ねえ、あなたたちが私を呼んだ人なの?」息を切らしすぎないように、声のトーンを抑える。アイリスが優雅に謎めいた微笑で応える。「遅かったのね。待ちくたびれたわ」「あなたたちこそ、私を探しに来なかったなんておかしいわよね?」エイブリィは突っかかった声を出す。「私たちが探す?何を言っているの?あなたがここに来る運命だったのよ」「何それ?意味不明よ」エイブリィはイライラを抑えきれない役になりきって応える。それまで聞いていたフィービーが、ふんわりと微笑んで口を開く。「まあまあ、二人とも。これからは三人一緒に動くんだから、ザッハトルテでもどう?」「カット!OK!」監督の声が響き渡る。「アイリス、フィービー、エイブリィ。いい演技だったよ。」現場が一気に安堵の空気に包まれる。(他の人の演技なんてどうでもいい。私の、私の演技は上手くできていたの?)「エイブリィ、表情がよかった。緊張感が伝わってきた。足は大丈夫か?無理するなよ。」監督の言葉に、彼女は監督の顔を伺う。言葉以上に表情を探る。ここでうまくやらなかったら次もどうなるかわからない。(上手くいったみたいね…)ホッとしたエイブリィ。しかし、まだ現場には緊張感が残る。そこへ、アイリスがそっとエイブリィに近づく。⇒ 2話に続く