平凡社
韓国を代表する日本文学の翻訳家クォン・ナミさんのエッセイです。
30年のキャリアを持ち、村上春樹のエッセイ、小川糸、恩田陸、群ようこなど、300以上の作品を手がけています。
日本語を選択したのは、三島由紀夫の『金閣寺』を読んだから。
はじめて読んだ日本小説の感想は、何とも言えないゾクゾク感だったそうです。
その後、クォン・ナミさんは日本に留学しますが、帰国後は就職できず、しばらくニート生活を送ります。
朝食後に読書、昼食後に読書、夕食後に読書という、何とも羨ましい(?)生活を送るうちに見つけた「暇つぶし」が、留学中に買った日本の小説を翻訳することでした。
やがて、数人を介して知り合った小説家が、出版社を紹介してくれ……
著者は「私の翻訳人生の8割は運」といいますが、もちろん努力は惜しんでいません。
書店に通い、今何が読まれているかリサーチする
たくさんの本を読んで、いい作家を見抜く目を養う
つまらない本も読んでいて、本当にプロだなと思います。
駆け出しの翻訳家時代、出版社にいいように使われ、悔しい思いもしています。
本書では、翻訳家のリアルな日常も描かれていて、原稿料の話なども赤裸々。
翻訳家になりたい人へのアドバイスや直訳と翻訳の違いなど、実際の例もあげられていて、翻訳物を読む側にとっても興味深い内容です。
おもしろかったのは、「訳者あとがき」
えっと、本書の訳者あとがきではなくて(それももちろん悪くない)、クォン・ナミさんが翻訳した日本の文学につけられた「あとがき」ですね。
川上未映子『乳と卵』、村上龍『エクスタシー』、浅田次郎『姫椿』、貴志祐介『天使の囀り』、絲山秋子『袋小路の男』などの「あとがき」を読むことができます。
クォン・ナミさんは、「浅田次郎の『天国までの百マイル』は涙と鼻水まみれで読んだが、『姫椿』は最初から最後まで微笑みながら読んだ」そうです。
率直で飾りのない文章がとても心地良い。
そのへんの雰囲気がうまく出ている、これも気合の入った日本語訳です。
ちなみにクォン・ミナと検索すると、全然違う人が出てきます。
(やっちまった人)
おつき合いありがとうございます。