2024年10月10日

青土社

 

 

長年ランニングに打ち込んできたものの、60代に入ると、怪我や体力の衰えに意気消沈する筆者。

走ることをあきらめようかとまで思いつめます。

 

そこで出会ったのがマスターズ陸上の世界でした。

 

マスターズ陸上とは、35歳以上の人が生涯にわたり同年代の人々と競技する場。5歳刻みで、5年ごとにクラスの最も若い人になれるので、記録更新・上位入賞のチャンスも狙えるそうです。

 

あるパークランに集まった競技者たちが紹介されます。

 

ここには80歳以上のランナーが40人います。

 

実年齢は86歳なのに、がっしりとした体格のフログリーは60代見えるといいます。(本当か?)

 

ランナーたちの言葉はウィットに富んでいて、前向きで、力づけられます。

 

 

「結構な年寄りが走ると、死んでしまうんじゃないかと、心配する連中がいる。だがね、私くらいの年齢になると、朝から晩まで、いつ死んでもおかしくないんだよ。それなら、走ったっていいじゃないか」80代後半のリチャード

 

 

「どんなに落ち込んでも、そこからまた自力で這いあがり、また走りだすしかない。外に出て走って、景色を楽しむ、するとどういうわけか、もう悩みが消えている。気持ちがさっぱりして、また元気になるんだ」もうすぐ90歳になるケン

 

 

 

たくさんの高齢者が出てきますが、元気だから走っているというよりは、走っているから元気という感じ。

実際に深刻な病気を乗り越え、また走りだした人もいて、驚嘆します。

 

著者のリチャードも、高齢になっても走り続けられるようなトレーニングを実践して、再び走り出します。

 

 

そのメニューは高強度インターバルトレーニングといって、中程度の運動をだらだら行うといった中高年がやりがちなものではなく、限界ギリギリのダッシュを続けて、同じ時間リカバリーを挟むというような、めりはりの効いた方法です。

 

ほかにも進歩的なトレーニング方法が紹介されていて、昔の根性論を持ち出して頑張ってしまうような人は、読んで最新の情報に通じたほうがいいと思います。

 

 

簡単なトレーニングを一つご紹介すると、立ったまま靴ひもを結ぶというもの。

 

みなさん、立ったままスニーカーの靴ひもを結べますか。

いきなりやって、転んだりしないでね。

 

 

世界マスターズ陸上競技選手権大会を目前に、リチャードは新型コロナウイルスに感染して、1か月近く競技から遠ざかることになります。

 

 

そのときに訪ねたのが、マサチューセッツ大学ローウェル校の哲学科主任教授のジョン・カーグ。

カーグ自身もランナーで、若いときは走っている最中に娘を見かけても、スピードを落とさず娘に泣かれ、そのせいかどうか分かりませんが、離婚するという経験をしています。

 

カーグの話を聞いて、リチャードが考え、走ることに対して、また生きることに対して、一旦行きつく結論のようなものが心に残ります。

 

 

哲学は死の練習であると、ソクラテスが言ったのは有名な話だが、ランニングにも似ているところがあると思う。歳をとるにつれて、身体が徐々にいうことを聞かなくなるのを痛感するからだ。朝、起きると関節が痛かったり、関節炎になったりする。だから、そうした人生の厳然たる事実に対して、自分の期待を調整しなければならなくなる。そして、アスリートはその行為が苦手だ。

 

 

 

リチャードは40年以上のキャリアを持つジャーナリストで、現在英国で最も著名なランニングに関するライターの一人だそうです。

 

訳も読みやすく、楽しい読書でした。

 

 

おつき合いありがとうございます。