ブンガクノチカラ(文学の力)
小説を読んでいて、すごく稀にこの言葉が浮かぶときがあります。
2024年6月20日
白水社
(3000円+税)
語り手は、発話することができない少女。
物語は少女が記す手記の形を取ります。
語りかけているのは「あなた」
つまり読者である「わたし」です。
足が勝手に動いて歩き出してしまうという少女は、母親と紐で結ばれています。
背景は、2013年にダマスカス郊外グータで起きたアサド政権軍による包囲戦。
検問の恐怖、封鎖下の東グータの窮乏が克明に描かれます。
空爆、化学兵器、水も食料も断たれ、紐で建物の一部と結ばれた少女。
少女を保護するための紐でありながら、自由を奪われ、そのために命の危険にもさらされている。
悲惨さは比較にならないけれど、身近なところに目を向ければ、この国も、ある人々にとっては決して安全ではない。
例えば、子どもは保育園に預けられ、老人は施設に入れられる。
保護という名のもとに……
少女は次々とおそう困難を書きとめながら、自由な精神世界で空想に遊びます。
それは、少女がかつて、母親の仕事場である学校の図書館につながれている間に読んだ本の数々
『星の王子さま』や『不思議の国のアリス』といった文学の力によるものが大きかったことでしょう。
私は物語です。私はいなくなってしまう。
今、あなたが撒き散らされた私の言葉を読んでいるとき、きっと私はあなたと一緒にいますよ。アリスの物語のにやにや笑いの猫みたいに。……
おつき合いありがとうございます。