2001年12月14日発行
岩波書店
戦死した夫、ウィリアムの友、フレデリックと再婚したヴィクトリア。
そこへ、死んだはずの夫が帰ってきます。
なかなか事態をのみこめないウィリアムと、困ったフレデリックとヴィクトリア。
戦争が生んだ悲劇が、爆笑ものの喜劇として描かれます。
女性に不利だった当時の離婚制度への皮肉なども盛り込み、風刺のきいたコメディに仕上がっています。
解説によると、この劇は、1919年ロンドンのチャリングクロスにあったプレーハウス劇場で上演され、その後、200回を超えるロングランとなったほか、その後もたびたび再演され、少なくとも三度は映画化されているそうです。
どの人物もおもしろく造形されていますが、ヴィクトリアの母・シャトルワース夫人の言葉には含蓄があり、作者モームの鋭い人間観察眼が発揮されています。
スパッツの男というのは、きまって模範的な夫になるのさ。(中略)スパッツは秩序だった精神の象徴なのさ。彼は物事をきちんとしておくのが好きなんだよ。(中略)つまり習慣の動物なんだ、あの男は。誓ってもいいけど、レスター・ペイトン(スパッツの男)は結婚して半年もすれば、自分が独身だったってことを忘れてしまうだろうよ。
〈スパッツ〉とは、訳注によると、くるぶしの少し上までおおう一種のゲートルのことだそうです。
これを私は「ももひき」と解釈しましたところ、前回の『不適切にもほどがある!』で阿部サダヲ演じる、いかにも愛妻家で浮気ひとつできない小川市郎が、「ももひき」をはいていたことに妙に納得したのでした。
おつき合いありがとうございます。