●「今から数万年前の氷期にヨーロッパの洞窟や岩陰に描かれた絵や彫刻」
●「岩面には人間よりも動物や記号が多く描かれている」
およそ4万年前から1万4500年前に描かれたヨーロッパの洞窟壁画遺跡は、発見されているだけでも400に迫るそうです。
いつ、誰が、何ゆえ描いたのか。
1995年から、フランスの古人類学研究所を拠点に、洞窟壁画を研究する先史学者のもとで研究を続けた筆者。
フランス滞在中に50か所以上の洞窟壁画を見学し、調査研究をした成果がこの一冊にギュッと詰め込まれている感じです。
第Ⅰ部 洞窟に何を描いたのか
描かれているのは主に動物。
マンモスやライオン、馬、バイソン、オーロックス、トナカイなどです。
そこには記号のようなものも描かれ、なにかを示しているようでもあります。
第Ⅱ部 どうやって壁画を描いたのか
基本、洞窟の中は暗闇で、なんでわざわざこんなところにという疑問とともに、どうやってというハテナが生じます。
ハシゴや足場、ランプはどうしたのかなど、興味は尽きません。
第Ⅲ部 なぜ洞窟に壁画を描いたのか
筆者が受ける質問で圧倒的に多いのは、「なぜ」という部分だそうです。
多くの先駆者が研究した様々な説を紹介しますが、どれも決定打に欠ける感じ。
「旧石器時代における宗教や象徴的解釈を認めない研究者たちは、この時代の美術を単なる模倣でしかないとし」ています。
だとしても、その模倣能力はかなり高度です。
それがよくわかるのが、フランスのロルテ遺跡出土のトナカイの線刻画です。
この絵では、トナカイがギャロップするときの脚の運びが正確に再現されているとのことで、興味深いです。
19世紀後半に高速度撮影技術が開発されるまで、この動きを正確に描く画家はいなかったそうです。
第Ⅳ部 いつ壁画を描いたのか
壁画が描かれた年代を特定する方法は、近年大きく進歩したようです。
「放射線炭素年代測定法」など、聞いたことはあっても、よく理解していなかった方法についてもわかりやすく解説されていて、おもしろかったです。(なにげに勉強好き笑)
第Ⅴ部 どこに壁画が残っているのか
ヨーロッパ各地の壁画が残る地域が地図で示されます。
分布を眺めていると、何かが見えてくる?
第Ⅵ部 だれが壁画を描いたのか
ここも興味深い部分でした。
そもそも描いたのはホモ・サピエンスだったのか、ネアンデルタール人だったのか。
様々な可能性が考慮されます。
ヨーロッパ各地で見られる、女性を描くときの表現の違いなども興味深かったです。
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かなりのボリュームになりますが、各部に「まとめ」があり、素人の私でもついていくことができました。
今より寒く、人口も比較にならないぐらい少なかったという旧石器時代のヨーロッパ。
年代や技法など、これから明らかになってくることもあると思いますが、なぞは謎のまま残っていくのでしょう。
そこにロマンがあります。
おつき合いありがとうございます。