夏目漱石も『三四郎』『それから』『門』と読んできて、ドロドロがちょっと嫌になったので、ここらで『草枕』を入れてみました。
山路を上りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかく人の世は住みにくい。
という書き出ししか知らないのは、これも『吾輩は猫である』と同じです。
都会を脱して田舎を旅する画工。
『三四郎』の美禰子を思わせる女「那美さん」に翻弄されますが、三四郎のようにうぶではありません。
若いとき親の金を使って遊び、人妻とのっぴきならない関係になってひっそり暮らした後、家を出てしまった過去を想像するのは、『三四郎』『それから』『門』を読んだ後だからでしょうか。
とはいえ、この小説が書かれたのは、『三四郎』より前なのです。
漱石にはどこまで見えていたのだろう。
見えていたといえば、「汽車」のこと、与えられたわずかな地面の上で暮らす「自由」を鋭く考察した文章などは、まったく現代のありさまを見ているかのようです。
今でも、若い人にでも、読まれるゆえんでしょう。
小説なんか初からしまいまで読む必要はないんです。けれども、どこを読んでも面白いのです。
おつき合いありがとうございます。