2023年9月30日発行
河出書房新社
東京に居を構え、しばらく落ち着くことになりそうだから、母を呼び寄せよう。
子どもが生まれたら、面倒を見てもらえるかもしれない、という思惑もあったようです。
しかし、「幼少期、母とテーブルを囲むのはレストランや居酒屋など外食時のみ。所謂、家庭での団欒に異常なまでに憧れていた」という記述に早くも不安がよぎります。
そうなんです。
筆者の母親は、若いときから炊事というものをしたことがなく、部屋を片づけることもできず、住んでいたアパートを追い出され、これ幸いと娘のところにやってきたのでした。
早々に同居は無理とあきらめ、近くに部屋を借りますが、家でお風呂に入るのを嫌がり、高級ホテルを泊まり歩いたり、自炊ができないため、何日も食事をとらずに倒れ、救急車で運ばれたりと、そのたびに仕事を持つ娘は疲弊していきます。
普通に暮らせる娘からしたら、本当に困ったお母さんだと思うのですが、どこか魅力的なところもあって、いろんな人が助けてくれて今まで生きてきたのでしょう。
お母さんとかかわった日々は、リーさんの人生をも変えてしまいます。
リーさんは、今、福祉関係の仕事に従事し、不定期に〈オルタナティブ福祉〉という座談会を開催しています。
しかも、子どもの頃になりたかった「物書き」になってしまったのは、お母さんが「叶えてくれた夢」と、ある人からぽろっと言われたことを最後に書き加えるなど、苦労をしただろうに前向きです。
人は年をとるに連れ、そのくせが増し、頭もかたくなり、しかし自分が年をとったことに頭が追い付かずに気持ちは若いままでいる。わたしももちろん例外ではない。
私がこの本を読んだからといって、人生が変わることはないでしょう。
だけど、親や自分に、もうちょっと優しくしてもいいかも、と思えました。
人はそれぞれが思っている以上のものを抱え、またそれを外に出すこともままならないままに生きている(略)。
※囲み内は本文からの引用
おつき合いありがとうございます。