Largo(ラルゴ)ゆったりと
cantabile(カンタービレ)歌うように
dolce(ドルチェ)甘く、愛らしく
楽譜の中に書かれる指示記号と呼ばれるものです。
楽曲をどんなふうに奏でたらいいのか、作曲家の意図するところを伝えるものでもあります。
フランスの作曲家・サティは、五線譜の隙間に、もっといろいろ書いていました。
例えば
海水浴
奥さん 海は広いですよ
ともかく深すぎますよ
水の底に座ってはいけません
とても湿っています
立派に発達した波がやってきます
波たちは 水でふとっていますよ
ずぶ濡れになられたことでしょう
―ええ そうよ
『エリック・サティ詩集』というタイトルですが、3つの詩をのぞき、すべて楽譜の中に書きこまれたものだそうです。
訳者の編集もあるようですが、それを集めると、詩のようになってしまうのがおもしろい。
この詩集を教えてくれたmasaecoさんが、記事の中でサティとの妄想レッスンをやってくれてますが、サティにピアノレッスンを受けたら、そんなふうになりそうです。
ピアノレッスンといえば、私は高校生のとき、それまで習っていたピアノ教室から、別の先生に変わりました。
当時、まだ若かったその先生は、おっしゃることがなかなか謎でした。
「ねえ、コトラーちゃん、おはぎの小豆って、ただ砂糖を入れればいいってもんじゃないのよ。少しだけ、お塩を入れるじゃない?そうすると甘さが引き立つでしょ。そういうふうに弾いてよ」
いまだおはぎの小豆をたいたことがない私が、高校生のときにこんなことを理解できるわけはありません。
それでも、その先生のレッスンは楽しいものでした。
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エリック・サティの音楽は、1985年、サティの没後60年で版権が切れるや、テレビのコマーシャルや、映画の中で流れるようになり、ちょっとしたブームになったそうです。
私がはじめてサティを認識したのは、別役実のお芝居だったように思います。
「舞台には電信柱が1本。夕暮れ。風が吹いている」
不条理演劇といわれる別役さんの舞台に、サティの音楽はぴったりなのでした。
おつき合い、ありがとうございます。