なにこれ?

冒頭から、たまらないおもしろさです。

 

2017年、42歳の若さで亡くなった作家・赤染晶子さんのエッセイ集です。

 

2006年から2010年まで、「新潮」「群像」「文学界」「京都新聞」などに掲載されたものをまとめたもののようです。

 

雑居ビルで働くOLの一日をつづった、表題作の「じゃむパンの日」

 

別のテナントの資格教室のスタッフと間違われ、看護師と間違われ、自分の会社の窓口では「お前、インド人やろ」と言われる。

 

係長に「気にしたらあかんで」と言われ、給湯室に行く〈わたし〉は、自分は〈貧乏な新婚さん〉みたいと思う。

 

この給湯室妄想が冴えてます。

 

 

母親について書いた「書道ガール」、祖母のことをつづった「おはる」、祖父の家を描いた「昭和の家」にも、おかしみのある文章に家族への愛があふれます。

 

 

著者は、自身の芥川賞受賞作『乙女の密告』を、かつて母親が下宿していた商店街の書店で注文します。

 

小さな本屋で入荷が遅れていた。店主は鼻息も荒く新潮社に電話した。

「まだですかいな!書いてはる人がほしい言うてはりますのや!」

店主が胸を張る。

「新潮社にばあん言うたりましたわ」

 

 

巻末には、2011年5月の「新潮」に載せられた、岸本佐和子さんとの「交換日記」も収録されています。

 

赤染さんは岸本さんに「なぜ翻訳家のあなたがそこまで面白おかしくある必要があるのでしょうか」と書きますが、そのセリフをそのまま、赤染さんに言ってあげたい。

 

なぜ、芥川賞作家の赤染さんが、ここまで面白おかしくある必要があるのでしょうか。

 

 

赤染さんはドイツ文学を勉強した方でもあり、『乙女の密告』は、アンネ・フランクを題材としたものです。

ですから、エッセイも、おもしろおかしいだけではありません。

 

だけど、閉鎖した〈京都花月〉の思い出をつづった「初笑い」は、やっぱりおかしいのです。

 

 

2022年12月1日
palmbooks

 

 

 

 

 

 

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