「店を閉める。もうやっていけん」

明日から夏休みという日の夜、商店街で喫茶店を営むとうさんが言います。

 

生活を立て直すため、夏休みの間、弟と2人で、ばあちゃんの家に行ってほしいというのです。

 

岡山から鳥取まで、とうさんの赤いカローラで向かいます。

何年も会ってないばあちゃんは、海女さんでした。

 

陸では腰の曲がったばあちゃんが、ウエットスーツを着るとシャンとします。

ばあちゃんがとってくるカキはだれのよりも大きく、水揚げもいつもトップです。

 

 

「海でひとりぼっちじゃろ。さみしくないん?」と聞くなつきに、ばあちゃんは、「外から見たらそうかもしれんけど、夏の海ん中は賑やかなもんよ。(中略)楽しいよお。」と答えます。

 

海がなつきの心を広く大きく安らげたように、読んでいる私の中にも海が広がります。

 

 

 

あとがきによると、本書は、著者がテレビ番組を見たことからはじまりました。

 

それは、山陰の海にもぐりつづけて58年、大海女と呼ばれる人のドキュメンタリー番組でした。

 

著者は、番組で見た海女さんの表情が忘れられなくて、耳にした地名だけを頼りに鳥取へ向かい、その人を探し当ててしまったのです。

 

80歳を超える海女さんはその後、全国を講演会で飛び回り、ダイビングの世界大会に特別ゲストとして招かれるなど、大活躍します。

 

彼女の華々しい活躍ぶりを思うとき、この物語はささやかすぎるようにも思います。これはあくまでもわたしの貧弱な想像力の産物であり、十一歳の少女のひと夏の小さな物語として読んでくだされば、幸いです。

 

 

物語もすばらしいのですが、テレビでちらっと見たドキュメンタリー番組から、こんなお話をつくってしまった作者の行動力にも驚きました。

 

 

2003年6月20日
講談社

 

 

 

 

 

おつき合いいただき、ありがとうございます。