トラウマ研究の第一人者である宮地尚子さんのエッセイ集です。

 

臨床の医師として、生活者として、日々感じることを飾らない文章でつづります。

 

2007年から2008年に『週刊医学界新聞』に載せられたものに、書き下ろしを加え、大月書店から発行されたのが2010年。

 

今回、文庫化に当たり、東日本大震災のことや、都会の電車が時々止まってしまうことについて書かれたものが、追加されています。

 

宮地さんが、相当の読書家だということは、幾つかの文の巻頭に引用されている、エピグラフからもわかります。

 

そして、日々、よく考えている方だということも。

 

あふれる情報を精査する中で、つまらない情報にほっとする自分に気づく。

「だって捨てられるから」

おもしろい情報を探す作業のはずなのに、本末転倒だと。

 

 

味わいたい。

ゆっくり味わいたい。

そう心が叫ぶ。

 

 

宮地さんは考える人だけど、恐らく日々の暮らしに追われて、考えてばかりもいられないのだと思います。

 

それでも、宮地さんは「問い」を手放しません。

 

だから、泳いでいるときに、ふと「発見」したりする。

 

 

「なんでできないの?」と「なんでできるの?」には深い溝がある。教える側も教わる側も、どちらもがもどかしい。

 

私は臨床ではもっぱらアドバイスをする側であるが、「なんでこれくらいのことができないの?」と思うことは正直多い。

 

例えば、自分を守ること、人との距離を保つこと、自分の気持ちを抑えること、独りでいること。

 

そんな「普通の人」にとっては簡単なことでも、患者さんはできなかったりする。

 

でも、「ああ、彼女はいつも溺れそうな気持で生きているんだな」と気づけば、もっと寄り添える。

(「溺れそうな気持」)

 

 

 

トラウマにかかわる仕事をするとき、「二次的外傷性ストレス」や「燃え尽き」が起こりやすいことにも触れています。気をつけていても、無力感や疲労感はしんしんと積もっていく。

 

 

「専門家」だって傷つくよ、傷に慣れることなんてないんだよ、自分の傷なんて被害者に比べたらたいしたことない、なんて思わなくていいんだよ、と。

 

 

 

単行本の表紙は、

Maya Linによるベトナム戦没者記念碑のスケッチ

 

 

 

文庫版の増補された内容も捨てがたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。