「恋のバカンス」「ウナ・セラ・デイ東京」などの作曲者、宮川泰さんのご子息で、ご自身も作曲家の宮川彬良さんの自伝的エッセーです。

 

冒頭から、幼少時トイレに積み上げられたグラビア付き週刊誌、大人漫画、劇画などのヌード写真に魅せられた話から始まり、つかみはバッチリです。

 

父親が空き箱にコレクションしていた、選り抜きのヌード写真を盗み見て、「ウチのパパはセンスが良い」などと納得したのは、6歳の頃。

 

宮川さんによると、ヌードとはすなわち「曲線」、曲もまた「曲がる」と書き、メロディーとは「曲線美」のこと。

 

ヌード写真は父親から息子への「曲線美」のレッスンだったというのです。

 

エピソード3話目にして、2007年、75歳でこの世を去った宮川泰さんの葬儀の話が出てきます。

 

生前の1998年、昭和の名指揮者・石丸寛さんの音楽葬に参列した帰り道、父は息子に言った。

 

「俺が死んだらヤマトな」

 

ヤマトとは宮川泰さんのヒット曲《宇宙戦艦ヤマト》のことです。

 

息子の彬良さんは、考えに考え、棺を祭壇から車に乗せるまで、3人のトランぺッターによる《真っ赤なスカーフ》を流します。

 

♪あの娘~がふっていた~真赤な~スカーフ~

 

これも切ないバラード、泣ける曲です。

 

そして、棺が黒塗りのキャデラックに収まるとき、ニューオリンズスタイルで流れる《宇宙戦艦ヤマト》

 

 

♪パーンパンパ パーンパパ パッパッパア~

♪パララ パンパンパンパ~ン パララッパ~

 

♪さらば~地球よ~旅立つ船は~宇宙戦艦~ヤーマートー♪

 

 

そう、彼は自身の書いたこの曲で旅立ちたかったのだ!

日本人の誰もが知っているこのフレーズに乗せて、地球と〝さらば„したかったのである。

 

 

こんな感じでのっけから盛り上がってこの先どうなるんだと思いましたが、ミュージカル音楽の作曲の話やNHKテレビ「クインテット」や「マツケンサンバ」などの話もあり、楽しめました。

 

巻末には宮川彬良作品リストもあり、多彩な仕事ぶりがうかがえます。

 

2022年3月20日発行

NHK出版

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございました。