須賀敦子さんから山田風太郎さんまで、52人の作家による本にまつわる随筆集です。
「作家の好きな言葉」長嶋有
講演会で好きな言葉を書いてくださいと頼まれ、「増刷」と書いた長嶋さん。
書いてみると、思った以上に間抜けで、小さく「したい」と書き添えた。
もっと間抜けになったが、作家にとって一番好きであろう言葉は「増刷」
初版を一万部刷って増刷がかからないより、初版四千部で二千部増刷のほうが、うれしいんだそうです。
ちょっとわかる気がします。
「本はみるものである」鈴木清順
私は本をよむのを好まない。本をよむくらいなら眠っている方がましである。本をよんでもよまなくても人生は人生だし、土台本をよむとは怪しからん。本はよむものではなく、みるものだ。むかし書見といったものが、何時どうして読書に変わったのか。本を読むようにしつけられてから、日本人は人間の本性を失って了ったんではないか。
たしかに、書見台というのがありますね。
おもしろいのは土屋賢二さんによる架空の「本の紹介さまざま」
『ロンドンでの暮らし方』
ロンドンに三ヵ月滞在した筆者が、ロンドンに住む秘訣を伝授。ホテルで盗難に遭って警察に行ったら英語がまるで通じなかった経験、女の容姿をホメたらビンタをくらった経験、(中略)など、貴重な経験談満載でロンドンの魅力を語る。ホテルに着いたら一歩も出るなというメッセージが熱い。一読すればきっとロンドンに住みたくなる一冊。
ほかにもこの世は牢獄だと考える筆者が「獄中」体験を赤裸々に綴った『獄中で生まれて育った』、一度も実際に馬を見たことのない著者が放つ野心作『馬の飼い方』など、お腹を押さえて笑いました。
「娘に贈る『夏の花』」栃折久美子
人は、分かっていることだけで生きているんじゃあない。世界はいま見えているものだけで成り立っているんじゃあない。分かっているつもりだったことが分からなくなったり、その逆のことが起こったりする。変わらないものは何ひとつなく、うつろいつづけ、変わりつづけているのが、人が生きてゆくことなのだろうから。
執筆者はほかに外山滋比古、森茉莉、西村賢太、萩尾望都、寺田寅彦、室生犀星など。
いろんな味が楽しめます。
2015年7月25日発行
キノブックス
お読みいただきありがとうございました。