2人は出会ってしまった。
「博子ちゃんだよね」
「田原さんですよね」
ただそれだけの会話の中で゛何か″を感じてしまった。
起きてはいけない゛何か″が起こる予感です。
ここで二人は、もうこれ以上進んじゃいけないと感じてしまう。
林真理子の話題作。
刊行から1週間で10万部のヒットを飛ばしているというではないですか。
梨園の妻と国際的に活躍する写真家の不倫の実話。
女性週刊誌のノリで話題になっているに違いないんですが、読んでみると純愛ものです。
まず、ヒロインが美しい。
1970年生まれの彼女は、裕福な家庭で育ち、3歳ではじめた日本舞踊で身を立てようというほどの腕前。両親は決して彼女を甘やかさず、どこへ出しても恥ずかしくない娘に育てあげた。
歌舞伎役者の家に嫁ぐことになりますが、そこでも才気を発揮し、舅姑に尽くし、家を盛り立てます。
パリに長く暮らし、審美眼に優れる男が夢中になった女性。
私には、婚家で自分を殺すヒロインが自らを縛る常識から解放される物語のようにも読めました。
小説への評価は真っ二つに分かれるそうですが、酷評される方は話の内容よりも小説としての出来を問題にされているのかもしれません。
たしかに盛り上がりに欠け、淡々と事実を追っているかのような筆運びですが、ノンフィクション好きの私には、この形はむしろ好ましい。
二人の出会いを「奇跡」と呼ぶなら、ありふれた日常の中にもそれは転がっているのではないかとも思えました。
自分の本なのに読むたびに泣いた。泣きながら思った。
まだ世界は、美しいもので満たされていると。-林真理子
不倫だ、梨園だ、というのは、本を売るための話題づくりでしょうね。
おとぎ話のような愛の物語です。
好きだわ、こういうの。
お読みいただきありがとうございます。