それはまるで伝染病だった。

 

物語はこの一文ではじまります。

もちろん、2016年に刊行された本書が今の事態を予測していたわけではありません。

 

語られるのは名前が明かされていないある都市(恐らくパリ13区)での出来事です。

長く外国で暮らしていた「わたし」は生まれ故郷の近くであるそこに再び住むようになります。

 

歴史的建造物と新しい建物が混在するその場所は、新たな開発を待つ巨大な建設現場にもなっていました。

 

まず、猫がいなくなり、愛し合うようになった女性、知り合いの男性も忽然と姿を消します。

 

やがて川が氾濫し、飲み込まれていく都市。

 

 

知らなかったのですが、セーヌ川は100年前にも氾濫し、本書が刊行された2016年以降も増水を繰り返しているそうなんですね。

 

 

 

 

とはいえ、これはパリという特定の場所の話ではなく、「誰もがいつかいなくなる」という消失の物語です。

 

すべては消え去る

 

物語をとおしてこの事実を突きつけられたとき、そのどうしようもない運命のようなものに、かえって救われたような気になります。

 

 

フィリップ・フォレスト
1962年、パリ生まれ。ナント大学文学部教授。現代フランスを代表する作家のひとり。1996年、愛娘の死を契機として小説執筆を開始。97年、長篇第1作『永遠の子ども』を発表する。その後、日本の「私小説」に影響を受けながら新たな「自己のエクリチュール」を開拓し、多くの小説や評論を発表している。また、日本文学・文化に関する批評も積極的に展開しており、考察対象は大江健三郎や津島祐子、夏目漱石、小林一茶など多岐にわたる。

 

 
 

 

お読みいただきありがとうございました。