それはまるで伝染病だった。
物語はこの一文ではじまります。
もちろん、2016年に刊行された本書が今の事態を予測していたわけではありません。
語られるのは名前が明かされていないある都市(恐らくパリ13区)での出来事です。
長く外国で暮らしていた「わたし」は生まれ故郷の近くであるそこに再び住むようになります。
歴史的建造物と新しい建物が混在するその場所は、新たな開発を待つ巨大な建設現場にもなっていました。
まず、猫がいなくなり、愛し合うようになった女性、知り合いの男性も忽然と姿を消します。
やがて川が氾濫し、飲み込まれていく都市。
知らなかったのですが、セーヌ川は100年前にも氾濫し、本書が刊行された2016年以降も増水を繰り返しているそうなんですね。
とはいえ、これはパリという特定の場所の話ではなく、「誰もがいつかいなくなる」という消失の物語です。
すべては消え去る
物語をとおしてこの事実を突きつけられたとき、そのどうしようもない運命のようなものに、かえって救われたような気になります。
お読みいただきありがとうございました。