目次を見て、好みじゃないかもと思いましたが、読んでみたらおもしろかった。

 

服部さんはサバイバル登山家です。

サバイバル登山とは食料や燃料を現地調達しながら、できるだけ現代装備や現代文明に頼らずに、長期間野生環境(山岳地帯)を旅する登山です。

 

その服部さんが、自分のライフワークに影響を与えたり、資料として参照したりした「面白本」を紹介してくれます。

 

紹介される本は

『極北 フラム号北極漂流記』フリッチョフ・ナンセン

『デルスー・ウザーラ』アルセーニエフ

『秘境釣行記』『熊吼ゆる山』『アラシ』今野保

『生きて帰ってきた男 ある日本兵の戦争と戦後』小熊英二

『極北』マーセル・セロー

など、60冊以上。

 

選書もサバイバル登山家ならではですが、本の紹介という形をとりながら語られる、筆者の濃ゆい経験や考察も興味深いです。

 

読書には波があって、すごい本に出合った後には読書スランプがやってくることもあるといいます。

他の世界(物語)が馬鹿らしくみえて、読む気が起きないのだそうです。

(ちょっとわかる)

 

筆者を読書スランプに陥れた本は『HONEY HUNTERS OF NEPAL』

ネパールの山奥で自給自足生活をする人たちが、張り出した岸壁の下につくられたミツバチの巣を捕るところを紹介した写真集です。

 

将棋や囲碁の真剣勝負の世界にも惹かれるようで、『3月のライオン』『ヒカルの碁』などが出てくるとうれしくなります。

 

筆者は活字中毒ではないといいますが、本を持たず長期の徒歩旅行をしているとき、気がつくと食料品のパッケージをくまなく読んでるというエピソードも楽しいです。

 

食べられるものの知識を得たのは図鑑からといいますが、栁田国男の報告や白土三平のマンガなどにちりばめられた、小さなエピソードに励まされることのほうが多かったとも。

 

食べたものが自分自身を作る(中略)と同時に私は、これまで読んできた書物からも作られている。山で飢え、ヤギのごとく紙を食べて……というわけではなく、読書で触れた世界が時に決定的に私の進む方向に影響し、エピソードが私の世界観を補強し、思いもしなかった考え方が私を救ってくれた。

 

そういう意味で、I am what I read.

私は読んできたものに他ならない。

 

私は食べなれたものより、食べたことのないものを食べるのがわりと好きです。

 

 

 

2021年2月21日発行

本の雑誌社

 

お読みいただきありがとうございました。