恩田陸さんが、読んでよかったビジネス書としてあげていた『最強マフィアの仕事術』を読んでみました。

『日曜日は青い蜥蜴』恩田陸

 

雑誌『フォーチュン』の「マフィア幹部トップ50」で上位ランクイン、35歳で最年少幹部として、まるまる1ページの特集記事が組まれたという筆者。

 

当時、ニューヨークを拠点とする五大マフィアの一つ、コロンボファミリーの幹部で、労働組合、建設業、興行、スポーツ団体に出資し、賭博、馬券屋、高利貸業の運営をしていたそうです。

 

さらに、自動車販売代理店と靴修理店のチェーン展開、ナイトクラブ、レストラン、パーティー施設の経営に携わり、銀行や会計士、大手企業の役員すらいいなりに動かし、株式市場でも利益を出していました。

 

なかでもガソリンの卸売りでは、禁酒法時代のように儲け、これらのビジネスで週に600~800万ドルを稼いでいたと豪語。

 

成功への近道は存在しない。
だが、近道よりもっといいものがある。
それは「有益な情報だ」

 

マフィアは仲間内で情報交換することを何よりも大切にし、筆者は本を読んでくれた「仲間」である読者に、ビジネスでうまくやるための「有益な情報」を提供すると約束します。

 

《本書で筆者が教える有益な情報》

●さっさと要点に入れ

●よい仲間と信頼できる相談役を持て

●むやみに口を開くな

●失敗から学べ

 

マフィア時代の筆者が心酔していたのはマキャベリの『君主論』

マフィアの人生を描いた脚本を読んでいるかのようで、命を賭して守らねばならない教えばかりだったといいます。

 

「攻撃するときは、復讐される心配がなくなるまで徹底して攻めるべきだ」

「ダメージは一撃で与えよ」

「愛されるよりも恐れられる方が安全である」―マキャベリ

 

のちに、筆者は犯罪は割に合わないということを身をもって知ることになります。

刑務所の中で、旧約聖書を手に取り『箴言』を読んだ筆者は、それがビジネス、特に不景気のときの経営に関する教訓の宝庫であることに気づきます。

 

知恵と規律を身につけるため

見識の高い言葉を理解する力をつけるため

規律ある堅実な人生を手に入れるため

正しいことを公正かつ公平に行うため

―ソロモン

 

ソロモンの教えに従うことを選んだ筆者は、マフィアの世界と縁を切ることを決意します。

 

ファミリーから抜ける者には死をというのがマフィアの掟です。

FBIから、昔の仲間の情報と引きかえに命を守ると持ちかけられた筆者は「そんなことをするためにマフィアを抜けたのではない」と言って断ります。

 

確かに私は窮地に立たされていた。本当に命が危ない―それは誰よりもよくわかっていた。しかし、未来は誰にもわからない。私が死ぬと決まったわけではないし、実際まだ息もしている。

それに、(中略)私は自分がおしまいだとは思っていなかった。昔の仲間を誰一人警察に売らなかったのだから。チャンスは必ずあると思っていた。自分が正しいと信じた道を選択して、本当によかったと思っている。

 

 

 

本当の成功とは辞書で「成功」をひくと、「試みや努力がうまくいくこと」とある。
つまり、自分の目的に沿って行動し、目的が達成できたら「成功」というわけだ。
この定義はソーセージでたとえるなら皮の部分にあたる。何を中に詰めるかは、人によって違う。自分にとっての意義ある成功を手にするには、ソーセージの中に何を詰めるかが肝心だ。

 

 

マフィアの生き方は映画『ゴッドファーザー』そのもので大変興味深いものの、筆者が足を洗い、聖書の『箴言』が出てきたあたりからは、真っ当すぎて正直退屈でした。

しかし、学校ではなく、実体験で、文字どおり命がけで学んだ知識は心に響くものでした。

 

マフィアは気が短い。

要点にさっさと入れというだけあって、単刀直入です。

ブラックなユーモアも楽しめます。

読んでよかったビジネス書でした。

 

2011年5月 第1刷

ディスカヴァー・トゥエンティワン

定価1500円