2011年寺田倉庫の代表取締役社長兼CEOに就任し、天王洲アイルエリアをアートの力で変身させた中野善壽さん。

 

前著『ぜんぶ、すてれば』もよかったですが、今回もまた示唆に富む内容でした。

 

戦時中の生まれで、物心ついたときに両親はなく、祖父母に育てられました。

小学校高学年のときに祖父母も立て続けに亡くなり、親せきのもとに預けられます。

 

その親戚のおばさんもほどなくして亡くなり、「頼りにできる人がいつでも近くにいる」という保証はないことを10代そこそこで知ったそうです。

 

そのためか独立心がとても強い中野さんですが、依存はよくないが、「困ったときに他人に助けを求める力は命をつなぎます」とも言います。

 

「一人だけで大丈夫」と強がっている場合ではない。

自分が無力で、孤独な存在であると、認めることから始まるのです。

 

日々、自分に向き合い、人に評価されることではなく、自分が正しいと思うことを行うという姿勢は、子どものときからでした。

 

前著でも紹介されていたのが、少年野球チームでのエピソーソです。

5年生で出場した試合、一塁にランナーが出ているシーンでした。

さあ打ってやると意気込む筆者に対して、監督のサインは「バント」。

 

冗談じゃない、僕は打ってやるとバットを振った結果は空振三振。

その後、怒った監督は卒業まで、筆者を試合に出してくれませんでした。

 

それでも、筆者は別にいいと思ったそうです。

僕は「レギュラーになるため」に野球をやっているわけじゃない。

野球が大好きで、野球が楽しいから続けているのだという気持ちはまったくブレませんでした。

 

一事が万事こんな感じですから、社会人になっても軋轢があったと思います。

しかし、その手腕は評価され、今は熱海の「ホテルニューアカオ」の再建を請け負っています。

 

コロナ禍、ネットでつながる今、孤独を感じる人への力強いメッセージがあります。

 

最近は、数字の指標として「フォロワー」の数というのもあるらしい。

インターネットでの発信が何人に届くかの人数。

 

それにどれほどの意味があるのか。

本当に、人の心が響き合うとはどういうことなのか?

惑わされることなく、問い続けたいと思います。

 

若いころから稼いだお金は生活に必要な分を除きすべて寄附してきたという中野さん。

今回も、本の印税は「東方文化地域で支援を必要とする子供たちへ全額寄付され」るそうです。

 

2021年11月6日第1刷発行

ダイヤモンド社

定価:1650円(本体1500+税10%)