2018年夏、歌舞伎町でホストクラブを経営する手塚マキさんは、店の子たちと短歌をつくりはじめました。

マキさんのグループ会社の書店「歌舞伎町ブックセンター」で開催した、歌人・小佐野弾さんの出版記念イベントがきっかけでした。

それから、1年半、毎月歌会を開き、900首近い歌が生まれたそうです。

そこから、俵万智さん、野口あや子さん、小佐野弾さんが選んだ約300首の歌集です。

 

 

元漁師 同じ水でも水商売 荒波に呑まれ深く溺れる 瑠璃

 

女好き あぁ女好き それなのに男ばっかり指名をくれる 斎藤工

 

ホストクラブに行く男性もいるんですね。

選者の小佐野弾さんもその一人で、歌舞伎町事情にとても詳しいです。

 

 

ムカつくよ!初回で使う博多弁あいつモテすぎ!禿げそうマジで

朋夜

 

嫉妬すると禿げるんですか?

 

 

気をつけな 早口言葉じゃないけれど 隣の客はよく書き込む客だ 栗原類

 

これは怖い。

 

 

嘘の夢 嘘の関係 嘘の酒 こんな源氏名サヨナライツカ 手塚マキ

 

 

人を剝き 殻を探して閉じこもる そういう街なの 孵化などしない 詠み人知らず

 

 

選者の俵万智さんによると、もともと日本では、千年以上前から、歌で愛を表現し合っていて、短歌には「相聞」という「愛の歌」のジャンルが、ど真ん中にあるのだそうです。ホストという愛のプロたちが歌を紡いでくれたら、「短歌も喜ぶんじゃないか」って気持ちがしたといいます。

 

野口あや子さん「光源氏は元祖チャラ男だ。ホストは光源氏に通じる」

 

小佐野弾さん「ホストって忙しいから、お客さんとのやりとりは、もっぱらLINEですが、その短い文章の中にパワーワードがガッと詰まってて、すごいうまい。だから彼らが歌を詠めないはずがないって思いました」

 

ホスト経験もある手塚マキさんは、「お客様のちょっとした一言や、さりげない一言、LINEの短い文章の裏側にある背景やお客様の気持ちを読み取ることがホストの仕事だと思っています」と語ります。

 

一流のホストは、その能力が著しく高いそうです。

 

そんな彼らが詠んだ295首の短歌ですが、いよいよ本になるぞというときに、新型コロナ感染症拡大によって不要不急という現実を突きつけられました。

歌舞伎町にとっては大きな危機でした。

 

それでも2020年5月に、いまの一番新しい言葉を歌に残そうと考え、Zoom歌会を開催し、最終章を作ったそうです。

 

言葉というのは、呟いて閉じ込めておけば、思い出した時に、その言葉が発せられた時の鮮度で蘇るんです。(「言葉に閉じ込めておけば千年もつ」(俵万智さんの言葉より)

 

 

作者紹介はホストの写真つきです。

 

 

第1刷 2020年7月6日

発行:短歌研究社

発売:講談社

定価:1300円(税別)