たぶんかなり無秩序な、無論ひどく偏った。
でもどう見ても力強いアンソロジーです。
力強すぎるかもしれません。(とびらより)
江國香織さんが選んだ詩の作品集です。
レイモンド・カーヴァー、ウンベルト・サバ、三好達治などの詩が収められています。
雪/八木重吉
雪がふっている
さびしいから 何か食べよう
アンチミテ/堀口大學
奥さん 私の詩集は凋れませう
あなたのやさしい指の間で
おびただしいクッションの葉かげに
奥さん あなたの乳房が熟します
奥さん 熱い接吻のあとの
冷たいシャンパンは美味ですね
奥さん 明るすぎますか?
奥さん ランプを消しませう
夜のパリ/ジャック・プレヴェール・大岡信訳
闇の中でひとつずつ擦る三本のマッチ
はじめのはあなたの顔をいちどに見るため
次のはあなたの眼を見るため
最後のはあなたの唇を見るために
そしてあとの暗闇はそれらすべてを想い出すため
あなたをじっと抱きしめながら
レストラン/リチャード・ブローティガン・高橋源一郎訳
三十七歳
彼女はもうすっかり疲れてしまった
結婚指輪、これはいったいなにかしら
彼女は空っぽのコーヒーカップをじっと見つめている
まるで死んだ鳥の口でも覗き込んでいるみたいだ
夕食は終わり
夫はトイレに行ってしまった
でもすぐ戻ってくるだろう、次は彼女がトイレに行く番だ
巻末には江國さんが、その詩を選んだ理由のようなもの、
出典と詩人の略歴が載せられています。
暗闇を恐れなくていい、と教えてくれたのは書物でした。考えてみればそれは道理で、書物というのは皆、暗闇の住人なのでした。そしてこれは無論地図ではなくて、暗闇でまたたくものをコレクションしたささやかな一冊にすぎません。
2003年4月30日第1刷
いそっぷ社