氷河期と言われた就職難まっただなか、やっと内定をもらえた会社はクレジットカード会社でした。
「お客様にありがとう、と言われる仕事がしたいです!」と言って入った会社で配属されたのは、コールセンター。
社内でもとくに「えぐい」と評判のキャッシング回収を行っている部署でした。
「借金の取り立て」をしているコールセンターです。
耳をつんざく罵声で脳が凍死・・・
次々と辞めていく同期。
体重は半年で10キロ減。
ストレスが原因のニキビが火傷でもしたかのように顔じゅうにできる・・・
「誰かが倒れたら代わりの誰かが補充される、そんなのって間違ってない?」
そんな思いから、督促で、お客さまに立ち向かう方法を研究し始めます。
「督促OLのコミュ・テク!」というコラムが挟まれるのですが、ふつうのコミュニケーションにも役立つ内容です。
その1 約束日時は相手に言わせる
その2 「お金返して!」と言わずにお金を回収するテクニック
その3 いきなり怒鳴られた時に相手に反撃する方法
「そもそも私たちが怒鳴られると固まるのは、動物としての本能らしい。動物の世界ではほとんどの捕食者が動くものを標的に狙ってくるからだ。群れの中で動いた個体から狙われる。だから人間も動物として危機を感じると固まるようにできている」
では、どうするか。
いきなり怒鳴られてビクッとからだが固まったら、足をつねる、足を踏んづけるなどして、下半身を刺激するのだそうです。そうすると、怒鳴られたショックによる金縛りが解けるのだとか。
そもそも相手に言い負けてしまうオペレーターは足元が落ち着いていないことが多いといいます。足を踏ん張るだけでも言い負かされなくなるそうです。
その6 「謝ればいいと思ってんだろ!」と言われない謝り方
その7 「ごめんなさい」と「ありがとう」の黄金比
その8 「声だけ美人になる方法」
ものすごい美人や超イケメンには、緊張してクレームが言いにくくなるのだそうです。
声も同じで、聞きほれるほどいい声で話されると、ぞんざいに扱えなくなるといいます。
「母国語が異なる多人種が暮らす欧米では、相手の表情やしぐさを見て相手の人となりを判断することが多い。しかし、日本語を話す同人種がほとんどの日本では、見た目よりも声のトーンによって相手の印象を決める傾向が強い」
人は見た目が9割かもしれないけれど、電話は声が10割なのだ
督促をしてよかったことの一つは、“だめんず”にひっかからなくなったこと。
筆者が長らくひっかかっていたのは「悪口系だめんず」でした。
「お前はだからダメなんだよ」
「自分がかわいいとか思ってんの?」
お客様が電話口で怒鳴るのは、根っこにやましい気持ちがあるから。
お金を返さないとどうなるかという不安、返さなきゃいけないという罪悪感、それから身を守るためにお客様はオペレーターを怒鳴るのです。
悪口系だめんずも自分に自信がない人だったと気づき、数年引っかかりつづけたそのタイプにやっとお別れすることができました。
会社名と年齢を聞けば、即座に年収がわかるというのも身につけたスゴ技?
入社時はまったく成績が出せなかったという筆者ですが、後に300人のオペレーターを指示するチームに最年少で配属され、年間2000億円の債権を回収するようになります。
信用を失うということは命を失うことに等しい。
私たちが相手に嫌われても、怒鳴られても、包丁を突きつけられても、督促しなければならないのは、お客様の信用を守ることができるから。お客様の信用を守るのはもしかしたら命を守ることになるかもしれないしね。
2012年発行の単行本が2015年には文庫化されています。
解説は何と佐藤優さんでした。
「『督促OL修行日記』はすごい作品です。組織論としても人間論としてもほんとうにすぐれた本です」と絶賛してます。
2015年3月10日
文春文庫
定価(本体550円+税)