この本、表紙からは内容が想像できませんでした。
鹿島茂さんが、ゲストとともに1冊の本を読み解くという趣向のようです。
ゲストと紹介の本は次のとおり。
楠木 建
成毛 眞
出口 治明
内田 樹
磯田 道史
高橋源一郎
鹿島さんとゲストのハンパない知識が飛び交う対談です。
オタクが、私の見てないアニメの話を始めたときのような、取り残された感を受けるのかと思いきや、紹介の本を読んでなくても楽しめます。
『論語』
先生方に、論語から教訓を得ようなんていう発想はありません。
フランス文学者の鹿島さんが、なぜ出口先生と『論語』を語ろうと思ったか。
鹿島さんには、上下巻からなる渋沢栄一の伝記『渋沢栄一』の著作がありました。
渋沢栄一といえば『論語と算盤』
そこで、鹿島さんは『論語』に深入りしていくことになったようです。
孔子の説いた「礼」とは、宮廷儀礼であって実はどうでもいいものだった。
「礼」は差別化戦略だったとか、やっぱり深読みですね。
出口先生が参考資料として挙げるのは、天皇と儒教思想~伝統はいかに創られたのか?炎上CMでよみとくジェンダー論 (光文社新書)などです。
『ルイ・ボナパルトのブリュメール18日』
1848年に『共産党宣言』を発表したカール・マルクスが、ドイツ三月革命の失敗でアメリカに亡命したドイツ人のためにドイツ語で、フランスで1851年に起こっているクーデターを説明、論考した本です。(鹿島さん)
政治ドキュメントながら、出てくる人物全員が二流、三流で、感情移入できる人が一人もいない。小悪党とか、茶坊主とか、ゴロツキとか、根性なしとか、そんなのばっかりなんだそうです。(内田さん)
本書では、ナポレオンⅢ世の変人ぶりが強調されるのですが、物知り鹿島さんが当時のフランスの様子を解説してくれてとてもおもしろいです。
『9条入門』
「日本国憲法」はアメリカからの押しつけだったのか、幣原喜重郎が考えたのか。
長く論争になっている点ですが、お二人の考えがその根拠とともに示されます。
憲法を考えるときは、1条と9条をセットで考える。現行憲法の第1章は、天皇に対しての人権侵害(高橋さん)という意見は興味深いですね。
考えるとは何かというと、最終的に比較することしかないんです。比較とは、差異と類似を見出すこと。そして、その差異と類似を見出せるのは、縦軸の移動なら歴史学、横軸なら人文地理学および旅行だけなんです。(鹿島さん)
『絶滅の人類史』
ソニー・リストンやジョージ・フォアマンがカシアス・クレイ(モハメド・アリ)に負けたのを見れば、ネアンデルタール人がホモ・サピエンスに負けたのもそれに近いというこの人の説は、かなり説得力があります。(鹿島さん)
大学の聴講生になって、6つの講座を受講したかのような濃い内容。
紹介の本を読んでなくても十分楽しめますが、鹿島さんが言うように、読んでから、また本書に戻るとさらにおもしろそうです。
これで1600円はお安いのではないでしょうか。
と、持ち上げすぎましたので、最後に1点ご指摘を。
第1章 楠木さんとの回で、鹿島さんが、ネットフリックスがアメリカ最大のビデオチェーンだったブロックバスターを駆逐してしまったことを「巨人ゴリアテに戦いを挑んだサムソンのごとく」(p21)と表現しているんですね。
これはね、言っときますよ。
巨人ゴリアテに戦いを挑んだのは、羊飼いの少年ダビデです。
サムソンは時代も違うし、全然弱くないの。
鹿島さんが言い間違えたのはしかたないにしても
校閲~~~何やってんの~
あ、でも、サムソン対ゴリアテ。
どっちが勝つんだろう。
見てみたい気もします。
令和3年2月1日 初版第1刷発行
祥伝社
定価:本体1600円+税