プロローグ

私の周りには、大人になってからの絵本との出会いで人生が変わったという人が何人もいます。なぜ大人が絵本を読むとこのようなことが起きるのでしょう。

 

絵本を読んでもらうとき、子どもの脳は感情や情動をつかさどる部分が活発に動いているのだそうです。つまり、絵本を読みながら、物語そのものを疑似体験していると言えるかもしれません。

 

一方、いろいろなことを知ってしまった大人は、絵本を自分のほうに引き寄せて解釈する傾向があるそうです。

 

筆者は、絵本からさまざまな気づきを得た体験をもとに、ワークショップ「大人のための絵本セラピー」を考案。2009年に絵本セラピスト協会を立ち上げ、絵本で人をつなげる活動を全国に広げています。

 

ワークショップで取り上げる絵本の解釈は人によってさまざま。

 

例えば、『ぐるんぱのようちえん』

ぐるんぱはひとりぼっちで寂しいと泣いている大きなゾウ。

ビスケット屋さんで、はりきって特大ビスケットを作りますが、売れなくてクビになります。

お皿づくり、靴屋、ピアノ工場、自動車工場と転職をしますが、どこに行っても作るものが大きすぎてクビになってしまいます。しょんぼりしていると、子守を頼まれ、ピアノを弾いて歌うと子どもたちが集まってきて、幼稚園を始めたという物語です。

 

 

これを新人研修で使ったところ、「仕事が合わなければどんどん転職したほうがいいんですね」という感想。

異業種交流会で紹介したところ、ある経営者は「ぐるんぱには顧客視点が欠けている」との感想。

会社役員の女性は、「ぐるんぱは悪くないと思います。悪いのは管理職です」

 

管理職、どこに出てくる?

 

 

絵本を読んだ大人の感想は、その人の内面を投影しているのだそうです。

対立になりかねない「違い」も絵本がクッションとなって、感じたまま、ありのままを表現することで、絵本セラピーのあとはみんなが仲よくなることが多いそうです。

 

絵本の解釈に正解はありません。

ありのままの自分を表現して、ああ、そういう考えもあるのねと、肯定的に受けとめられることで、安心感を得、また自分の内面に気づくこともできるようです。

 

 

巻末には大人の悩みに「絵本の読み薬」50冊が5つのテーマで紹介されています。

 

 

働くこと(仕事)

 

 

 

 

乗り越えてゆけ(成長)

 

 

 

幸せになりたい(価値観)

 

 

 

 

 

かかわりつながる(コミュニケーション)

 

 

 

 

多様性(ダイバーシティ)

 

 

 

 

 

 

2021年3月11日初版発行

瑞雲社

定価(本体1500円+税)