いまどきこんなしょうもない男がいるんだ。

 

大阪に妻子を残して、東京で女と暮らす。

その女には取材に行くと言い、北海道で教師をしている女のアパートに転がり込む。

女に養ってもらうのもいいかなと考えながら、3日目には女の留守中に1万円を拝借し、東京行きの飛行機に乗ってしまう。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

ひとりで、あるいは女と旅をする。

なにかから逃げるように。

 

一 八戸の女

二 怨念のニレ

三 八甲田山の幽霊

四 酸ヶ湯滞在記

 

福井県は「原発銀座」と呼ばれる。

6か所15基あり、全国1位。

 

海の見えない宿にひとり泊まる。

原発労働者相手に民宿をやっている宿だ。

東日本大震災以来、景気は悪い。

原発がつくられるのは大抵過疎地だ。

こういうところに来ると、単純に原発反対と言えなくなると筆者は言う。

 

編集者Hと山梨県の温泉で「温泉芸者」を呼ぶ。

三重県の売春島に行く。

沖縄の赤線跡、真栄原吉原界隈で女を買う。

 

神戸福原界隈ではお好み焼き屋に入って、ソープを紹介される。

風営法のため、ソープは零時で閉まる。

この街の非合法な時間はそこから始まる。

 

女を買って話を聞く。

取材なのだ。

聞き上手でやさしい。

 

繊細な文章。

変わりゆく街へのあたたかいまなざし。

 

最近は「どの地方もチェーン店が多くて、個性がない」という評判をよく聞くが、それは自分の体験上、旅人がチェーン店しか目に入っていないためだと思っている。その町を訪れるということは、訪れた人も試されていると考えた方がよい。とはいえ、私も再訪するたびに新たな発見があり、時々、自分の無学と鈍感さに呆然とさせられることがある。

 

ちなみに「路地」とは、被差別部落のことである。

本書ではそのことは語られない。

 

2018年8月30日初版発行

河出書房新社

定価:本体1650(税別)